会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

アルミ材の値段は三つある — 紗希、材料費のものさしを知る

同じアルミ材なのに納品のたびに単価が違う。先入先出法と平均法で答えが変わる悩みを、予定消費価格という知恵が解決する物語。

同じアルミなのに、値段が違う

工場経理に異動して1か月。紗希は月次の材料費集計で、早くも壁にぶつかっていた。

「郡司さん、このアルミ丸棒A材……月初の在庫は1kgあたり300円、10日の納品分は330円、20日の納品分は360円って書いてあるんですけど、どれが本当の値段ですか?」

「全部本当の値段だよ」

郡司さんは涼しい顔で答えた。

「アルミの相場は毎週動く。それに10日の分は、単価だけじゃなく引取運賃も乗ってる。買った値段そのままじゃなく、倉庫に届くまでにかかったコストも材料の取得原価に含めるんだ。材料副費というやつだね」

10日の納品書はこうだった。200kgで購入代価64,000円、引取運賃2,000円。合計66,000円だから1kgあたり330円になる。

10日 アルミ材200kgの購入: 引取運賃も取得原価に含める

借方(左)

材料66,000
合計66,000

貸方(右)

買掛金64,000
現金2,000
合計66,000

「で、今月現場が使ったA材は250kg。さて広瀬さん、材料費はいくらだ?」

先入先出法と平均法、二つの答え

紗希は在庫の記録を並べてみた。

  • 月初在庫 100kg × 300円 = 30,000円
  • 10日購入 200kg × 330円 = 66,000円
  • 20日購入 100kg × 360円 = 36,000円

「250kg使ったといっても、どの単価の分を使ったのか……倉庫のアルミに名札はついてませんよね」

「ついてない。だから仮定を置くんだ。古いものから順に使ったと考えるのが先入先出法。全部混ざったと考えて平均単価を出すのが平均法だ」

紗希は両方計算してみた。

先入先出法なら、まず月初の100kgを300円で、残り150kgを10日購入分の330円で使ったと考える。30,000円足す49,500円で79,500円。平均法(総平均法)なら、合計400kg・132,000円だから平均単価330円。250kg分で82,500円

先入先出法

  • 古い材料から順に使ったと仮定
  • 消費額 79,500円
  • 月末在庫は新しい単価の分が残る

平均法(総平均法)

  • 全部混ざったと考えて平均単価330円
  • 消費額 82,500円
  • 単価のブレがならされる

「3,000円も違う……。どっちが正しいんですか?」

「どっちも正しい。ただし期中で方法をころころ変えたらダメだ。継続して同じ仮定で計算するから、月ごとの比較ができる。うちは平均法でやってる」

工場長の無茶ぶり

そこへ大森工場長が図面を片手にやってきた。

「おい、新規の見積もりだ。B9型ハブ、アルミを1個あたり0.5kg使う。材料費はいくらで見積もればいい? 今すぐだ」

「え……今月の平均単価は、月末に全部の購入が締まらないと計算できません。20日以降にもう一回仕入れがあったら単価が変わりますし……」

「月末まで待て、だと? 客は今日返事が欲しいんだぞ!」

工場長が去ったあと、紗希は頭を抱えた。実際の単価は正確だけれど、月末まで確定しない。現場は今すぐ数字が欲しい。この時間差はどうにもならないのだろうか。

「そこでだ」と郡司さんが引き出しから一枚の紙を出した。「予定消費価格という知恵がある」

先に決める、あとで答え合わせ

「期首にあらかじめ『今年度、A材は1kgあたり320円で計算する』と決めておくんだ。過去の実績と相場の見通しから見積もった単価だね。月中の払出しは全部この320円で計算する」

「決めの値段で計算しちゃっていいんですか?」

「いいんだ。計算はその場でできるし、見積もりにも使える。単価のブレで製品原価が毎月上下することもない。今月の消費250kgなら、250kg掛ける320円で80,000円だ」

材料の消費: 予定消費価格320円 × 250kg(直接材料費)

借方(左)

仕掛品80,000

貸方(右)

材料80,000

「でも、実際にかかったのは平均法で82,500円ですよ。2,500円ずれてます」

「そのずれこそが大事なんだ。材料消費価格差異という勘定に取り出しておく。実際のほうが高かったから、原価が予定より余計にかかった**借方差異(不利差異)**だ」

予定80,000円と実際82,500円のずれを差異勘定へ

借方(左)

材料消費価格差異2,500

貸方(右)

材料2,500

材料

月初在庫30,000
10日購入66,000
20日購入36,000
仕掛品(予定消費)80,000
材料消費価格差異2,500
月末在庫49,500

「差異は毎月見張っておく。借方差異が続くようなら、予定価格の見積もりが甘いか、アルミの相場が上がり続けてるかのどちらかだ。差異は計算のごまかしじゃなくて、警報装置なんだよ」

翌朝、紗希は工場長の机に見積書を置いた。材料費は予定消費価格320円で即答。工場長は目を丸くして、それから初めて紗希に「早いな」と言った。

この物語の学び

  • 材料の取得原価には購入代価だけでなく引取運賃などの材料副費を含める
  • 単価が毎回違う材料の消費額は、先入先出法(古い順に使う仮定)や平均法(平均単価で計算)で求める。方法は継続適用が原則
  • 予定消費価格を使えば、月末を待たずに材料費を計算でき、見積もりにも使える
  • 予定と実際のずれは材料消費価格差異へ。実際が予定より高ければ借方差異(不利差異)で、原価上昇の警報になる

物語で単価の悩みを追体験したら、教材で計算方法を整理し、問題集で先入先出法と平均法の両方を計算してみましょう。