📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計
余裕資金の使いみち — 同じ株券なのに4つの顔を持つ有価証券
業績好調のアオバ商事が余裕資金で有価証券を購入。同じ株や債券でも保有目的によって科目も期末の評価も変わることに、拓海は驚く。
経営会議からの指令
株式会社アオバ商事の業績は、この期、過去最高ペースで推移していた。経営会議の決定事項が経理部に降りてくる。いわく、余裕資金の一部を有価証券で運用する。
新卒1年目の拓海(たくみ)は、経理課長の佐伯(さえき)から渡された資料を見て、軽く考えていた。
「株や債券を買ったら、全部『有価証券』っていう科目で計上すればいいんですよね?」
「半分正解で、半分大間違い。うちが今回買うのは4種類。同じ株券や債券でも、何のために持つかで科目も期末の処理も全部変わるのよ」
「持ち主の気持ちで会計処理が変わるんですか?」
「気持ちというより目的ね。順番に見せてあげる」
1つ目 — 値上がり益を狙う株
最初の購入は、上場企業アオイ物産の株式1,000株。1株620円、購入手数料5,000円。短期の値上がり益を狙った売買だ。
「時価の変動で儲けるために持つ株は、売買目的有価証券。取得原価には購入代価だけじゃなく手数料も含めるから、620,000円プラス5,000円で625,000円」
借方(左)
貸方(右)
2つ目 — 満期まで持ち切る社債
次は、シラカバ工業の社債。額面1,000,000円を、額面100円につき95円、つまり950,000円で購入した。償還までは5年。満期まで保有して利息と償還金を受け取る方針だ。
「満期まで持ち切るつもりの債券は、満期保有目的債券。額面より50,000円安く買えてるでしょう。この差額が金利の調整と認められる場合、償却原価法で毎期少しずつ帳簿価額を額面に近づけていく」
「50,000円を5年で割って、毎年10,000円ずつ……」
「そう。相手科目は有価証券利息。値上がり益じゃなくて、利息の一部として扱うのがポイント」
3つ目と4つ目 — 支配する株、付き合いの株
さらに、物流子会社アオバロジスティクスの株式60%を2,400,000円で取得。これは子会社株式だ。最後に、長年の取引先ミナト工芸との関係強化のため、同社株式を400,000円で購入。売る予定も支配する意図もない、いわゆる持ち合い株——その他有価証券である。
「4つ出揃ったわね。整理すると、こう」
| 分類 | 保有目的 | 期末の評価 |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 短期の値上がり益 | 時価。差額は当期の損益 |
| 満期保有目的債券 | 満期まで保有 | 償却原価法 |
| 子会社株式・関連会社株式 | 支配・影響力 | 取得原価のまま |
| その他有価証券 | どれにも該当しない | 時価。差額は純資産へ直入 |
「買った瞬間は似たような仕訳なのに、ここからこんなに分かれるんですか……」
決算日、4つの運命が分かれる
3月31日、決算日。各銘柄の時価が出揃った。
まず売買目的のアオイ物産株。時価は1株650円に上がり、1,000株で650,000円。帳簿価額625,000円との差額25,000円は評価益だ。
借方(左)
貸方(右)
次にシラカバ工業社債。償却原価法で当期分10,000円を加算する。
借方(左)
貸方(右)
そしてミナト工芸株。時価は430,000円に上がっていた。拓海は勢いよく「評価益30,000円!」と言いかけて、佐伯課長に止められる。
「その他有価証券の評価差額は、損益計算書を通さない。売る予定のない株の値上がりを利益にしたら、業績が実力以上に良く見えるでしょう。だから貸借対照表の純資産に直接計上する。科目は、その他有価証券評価差額金」
借方(左)
貸方(右)
「じゃあ、子会社のアオバロジ株は……」
「支配のために持つ株を時価でいじる意味はないから、取得原価のまま。仕訳なし。4銘柄あって、決算の扱いが全部違ったでしょう」
損益計算書に影響する
- •売買目的有価証券の評価損益
- •満期保有目的債券の償却額(有価証券利息)
損益計算書に影響しない
- •その他有価証券の評価差額(純資産へ直入)
- •子会社株式・関連会社株式(評価替えなし)
目的が数字を決める
仕訳を終えた拓海は、しみじみとつぶやいた。
「同じ『株を買う』でも、目的を聞かないと仕訳が決められないんですね」
「そのとおり。有価証券に限らず、会計はその取引で会社が何をしようとしているかを写し取る仕組みなの。だから経理は伝票だけ見てちゃだめ。稟議書を読み、現場に聞く。数字の手前にある目的まで確かめるのが、私たちの仕事よ」
翌日、日野が「取引先からゴルフ会員権をすすめられた」と言い出して経理部をざわつかせたが、それはまた別の話である。
この物語の学び
- 有価証券は保有目的で売買目的・満期保有目的・子会社株式や関連会社株式・その他有価証券の4つに分類する
- 取得原価には購入手数料などの付随費用を含める
- 売買目的有価証券は期末に時価評価し、評価差額は当期の損益(有価証券評価損益)
- 満期保有目的債券は取得差額が金利調整と認められる場合、償却原価法で処理し相手科目は有価証券利息
- その他有価証券は時価評価するが、差額はその他有価証券評価差額金として純資産に直入する。子会社株式・関連会社株式は取得原価のまま
物語で流れをつかんだら、教材で4分類の評価ルールを整理し、問題集で手を動かしてみましょう。
