会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

作りかけのギアは、何個分か — 量産ラインの月末と完成品換算量

月末の量産ラインに残った200個の作りかけ。紗希が郡司さんに教わったのは、仕掛品の「作りかけ度合い」を測る完成品換算量という発想だった。総合原価計算の物語。

月末の夜、ラインに残されたもの

月末最終日の夕方。ミナト製作所の第2工場では、シティサイクル向けのアルミ製チェーンリングが流れる量産ラインが止まったところだった。

棚卸に立ち会った紗希は、ラインの途中に積まれたトレーの山を前に固まっていた。切り出しは終わったが、歯の研磨も表面処理もまだの円盤が、きっちり200個。

「これ……製品でもないし、材料でもないし」

月末仕掛品だな」と、検品帰りの大森工場長が言った。「半人前だよ。いや、加工は半分済んでるから、半分は一人前か」

冗談のつもりだったらしいが、紗希は手帳にメモした。半分は一人前。あとで思えば、これが答えのほとんどだった。

特注品とは、数え方が違う

翌朝、紗希は先月のチタンフレームの要領で「指図書はどれですか」と郡司さんに聞いて、笑われた。

「量産品に指図書別の集計は向かない。同じ物を毎日何百個も流すのに、1個ずつ原価を追ったら伝票で工場が埋まる。こういうときは総合原価計算。1か月分の原価をまとめて集計して、月末に完成品と月末仕掛品に按分するんだ」

個別原価計算(特注チタンフレーム)

  • 注文ごとに別モノを作る受注生産
  • 製造指図書別に原価を集計
  • 指図書が完成したら原価も確定

総合原価計算(量産チェーンリング)

  • 同じ製品を連続して大量生産
  • 1か月分の原価をまとめて集計
  • 月末に完成品と月末仕掛品に按分

「按分……。でも、完成品と作りかけを同じ1個として数えていいんですか? あの200個、半分しかできてませんよ」

「いい質問だ。そこで使うのが完成品換算量——作りかけを『完成品の何個分か』に換算する発想だよ」

半分できた200個は、100個分

郡司さんはホワイトボードに今月の数字を書き出した。

  • 月初仕掛品 200個(加工進捗度50パーセント): 材料費84000円、加工費33000円
  • 当月投入 1000個: 材料費420000円、加工費(直接労務費と製造間接費)297000円
  • 当月完成 1000個、月末仕掛品 200個(加工進捗度50パーセント)

「ポイントは、原価を材料費と加工費に分けて考えることだ。材料のアルミ板は工程の始点で全部投入する。だから月末仕掛品200個も、材料だけならもう完成品と同じ1個分を抱えている」

「でも加工費は違う、と」

「そう。切削や研磨の手間は、工程が進むほど積み上がる。進捗度50パーセントの200個は、加工の手間で言えば200個×0.5=完成品100個分しか受け取っていない」

加工費を負担する完成品換算量 合計1100個分
完成品 1000個分
月末仕掛品 200個×0.5=100個分

投入の仕訳はこうなる。指図書番号の代わりに、月というくくりで仕掛品勘定へ流し込む。

当月の直接材料費の投入

借方(左)

仕掛品420,000

貸方(右)

材料420,000
当月の加工費(直接労務費・製造間接費)の投入

借方(左)

仕掛品297,000
合計297,000

貸方(右)

賃金180,000
製造間接費117,000
合計297,000

平均法で単価を割り出す

「うちは平均法を採用している。月初仕掛品の原価と当月投入の原価を混ぜて、平均単価を出す方法だ。順番にいくよ」

月末仕掛品の評価(平均法)
  1. 1数量の流れを整理する。月初200個+当月投入1000個=完成1000個+月末200個
  2. 2材料費: (84000+420000)÷(1000+200)個=1個420円。月末仕掛品分は 420円×200個=84000円
  3. 3加工費: (33000+297000)÷(1000+100)個分=1個分300円。月末仕掛品分は 300円×100個分=30000円
  4. 4月末仕掛品原価 84000+30000=114000円。残りが完成品原価になる

「完成品の原価は、材料費420円と加工費300円で1個720円。1000個で720000円だ」

当月完成品1000個を製品勘定へ

借方(左)

製品720,000

貸方(右)

仕掛品720,000

紗希は仕掛品勘定を締めてみた。左右がぴったり合う。

仕掛品(チェーンリング・当月)

月初仕掛品117,000
直接材料費420,000
加工費297,000
完成品720,000
月末仕掛品114,000

「半人前」の値段

締めた計算表を見せると、大森工場長は月末仕掛品114000円の行を指でなぞった。

「半人前どもに、ちゃんと値段がついてるな」

「工場長の一言がヒントでした。半分できた200個は、加工の手間で言えば100個分。作りかけ度合いを掛け算で測るだけで、按分の理屈が全部通るんです」

「ふん。じゃあ来月から、進捗度の見立てを間違えた奴は俺に説教されると思え。そこがずれると原価が全部ずれるんだろう?」

郡司さんが目を細めた。「工場長、いい原価計算担当になれますよ」

この物語の学び

  • 同じ製品を大量生産する工程では総合原価計算を使い、1か月分の原価を完成品と月末仕掛品に按分する
  • 原価は材料費(始点投入なら数量どおり)と加工費(進捗度に応じて発生)に分けて計算する
  • 作りかけは完成品換算量(数量×加工進捗度)で「完成品の何個分か」に直して単価を出す
  • 平均法では、月初仕掛品原価と当月投入原価の合計を換算量合計で割って平均単価を求める

物語で発想をつかんだら、教材で平均法・先入先出法の手順を整理し、問題集で月末仕掛品の評価を繰り返し練習してみましょう。