会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

工場の一年が、一枚につながる夜 — 製造原価報告書と原価差異の行き先

初めての工場決算に挑む紗希。材料も賃金も経費も、すべての流れが製造原価報告書に集まり、損益計算書へつながっていく。原価差異の行き先まで見届ける製造業決算の物語。

「工場の決算書を見せてくれ」

3月最終週。本社から届いた一通のメールが、紗希の初めての工場決算の始まりだった。件名は「決算資料の提出について」。求められているのは、見慣れた損益計算書に加えて、製造原価報告書という一枚だ。

「せいぞうげんか、ほうこくしょ……」

「商業簿記の会社と製造業の決算書のいちばんの違いだよ」と郡司さん。「商品を仕入れて売る会社なら、売上原価の中身は仕入だけだ。でもうちは自分で作った物を売る。だから『いくらで作ったか』を示す報告書が一枚、損益計算書の手前に要るんだ」

「一年分の材料も、賃金も、電気代も、全部その一枚に?」

「そう。工業簿記で一年やってきた勘定の流れを、そのまま一枚に畳み込む。まずは流れを思い出そう」

勘定連絡の流れ。この左半分が製造原価報告書になる
材料・賃金・経費仕掛品製品売上原価損益計算書

一年分を積み上げる

紗希は帳簿を締め、今期の数字を積み上げていった。

  • 直接材料費: 期首材料300000円+当期仕入2500000円−期末材料400000円 = 2400000円
  • 直接労務費: 1500000円
  • 製造間接費: 予定配賦額1500000円(実際発生額は1540000円)

「材料費は棚卸で挟み撃ちにして計算する。そして製造間接費は、期中ずっと予定配賦でやってきた。実際発生額1540000円との差、40000円の不利差異が残っている。ここは後で回収するから覚えておいて」

当期総製造費用は、予定配賦ベースで2400000+1500000+1500000=5400000円。ここに仕掛品の期首・期末を加減する。

製造原価報告書の骨組み
  1. 1材料費・労務費・経費を集計する(製造間接費は予定配賦額に修正し、配賦差異40000円を分けておく)
  2. 2当期総製造費用 5400000円を求める
  3. 3期首仕掛品600000円を足し、期末仕掛品500000円を引く
  4. 4当期製品製造原価 5500000円。これが今年『作り上げた』原価の総額

仕掛品(当期)

期首仕掛品600,000
直接材料費2,400,000
直接労務費1,500,000
製造間接費1,500,000
当期製品製造原価5,500,000
期末仕掛品500,000
当期に完成した製品の原価を製品勘定へ

借方(左)

製品5,500,000

貸方(右)

仕掛品5,500,000

「この5500000円が、製造原価報告書の最後の行。そして次の瞬間、損益計算書の役者になる」

報告書がP/Lにつながる瞬間

郡司さんは二枚の紙を机に並べ、線を一本引いた。製造原価報告書の末尾の当期製品製造原価5500000円から、損益計算書の売上原価の内訳へ。

「商業簿記なら『当期商品仕入高』と書く場所に、うちは『当期製品製造原価』が入る。ここが接続点だ」

  • 売上高: 8000000円
  • 売上原価: 期首製品700000円+当期製品製造原価5500000円−期末製品800000円 = 5400000円
当期に販売した製品の原価を売上原価へ

借方(左)

売上原価5,400,000

貸方(右)

製品5,400,000

「売上総利益は2600000円……あ、待ってください。さっきの40000円は?」

「よく覚えてたね。それが原価差異の行き先の話だ」

差異はどこへ消えるのか

「予定配賦で計算を進めた以上、実際との差40000円はどこかで精算しないといけない。正常な原因から出た少額の原価差異は、原則として当期の売上原価に賦課する。不利差異なら売上原価に足し、有利差異なら引く」

不利差異40000円を売上原価に賦課

借方(左)

売上原価40,000

貸方(右)

製造間接費配賦差異40,000

「これで売上原価は5440000円、売上総利益は2560000円。製造原価報告書の側では、実際発生額で並べた合計から配賦差異を引いて予定配賦ベースに揃えておく。報告書とP/Lで、差異を二重にも取りこぼしにもしない形だ」

夜、刷り上がった二枚を眺めに来た大森工場長は、しばらく黙っていた。

「材料の検収も、若いのの残業も、炉の電気代も……一年分の油と汗が、この一枚か」

「差異の40000円も、消えたわけじゃありません。売上原価に乗せて、今期の損益でちゃんと精算しました。予定で走って、決算で答え合わせをする。一年かけて、その仕組みを回してきたんです」

工場長は報告書の「当期製品製造原価」の行を、ごつい指でとんと叩いた。

「はい。そして最後の行が、そのまま損益計算書に流れ込みます。工場とP/Lは、ちゃんと一本の線でつながってるんです」

「……本社の連中にも、線の左側で何があったか読める報告書にしてくれよ」

「それが工場経理の仕事だと、この一年で分かりました」

この物語の学び

  • 製造業の決算書は製造原価報告書が加わる。材料費・労務費・経費から当期総製造費用、仕掛品の加減を経て当期製品製造原価を示す一枚
  • 当期製品製造原価は、損益計算書の売上原価の内訳で商業簿記の当期商品仕入高の位置に入る。ここが報告書とP/Lの接続点
  • 製造間接費を予定配賦しているときは、報告書を予定配賦ベースに揃え、原価差異は原則として売上原価に賦課する(不利差異は加算、有利差異は減算)
  • 勘定連絡図(材料・賃金・経費、仕掛品、製品、売上原価)が頭に入っていれば、決算書は流れの清書にすぎない

物語で全体像をつかんだら、教材で製造原価報告書の様式を整理し、問題集で報告書からP/Lまで通しで作ってみましょう。