📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計
グループの決算書をひとつに — 連結プロジェクトと消える取引
アオバ商事が小売チェーンを子会社化し、初の連結決算に挑む。グループ内の取引が「なかったこと」になる理由と、アップストリームの未実現利益を拓海が学ぶ物語。
アオバ商事、親会社になる
大阪支店が軌道に乗った翌年度の期首、アオバ商事はまた一段、大きくなった。インテリア小売チェーン「クラフトリビング」の発行済株式の80パーセントを26,000,000円で取得し、子会社化したのだ。
クラフトリビングは自社工房でオリジナル家具を作る人気チェーン。日野は早速張り切っていた。
「向こうの工房の家具、うちが仕入れて全国に卸せるんだぞ。逆にうちの雑貨は向こうの店頭に並ぶ。最強の組み合わせだろ」
一方、経理部には「連結決算プロジェクト」の看板が掲げられた。メンバーに指名された拓海に、佐伯課長が宣言する。
「今年からうちは親会社。アオバ単体の決算書とは別に、グループ全体をひとつの会社とみなした連結財務諸表を作るわよ」
「ひとつの会社とみなす……支店のときの合算と同じ要領ですか?」
「発想は近い。でも支店と違って、クラフトリビングは別の法人で、しかも株主はうちだけじゃない。だから消すべきものが増えるの。手順はこう」
投資と資本は、内輪の関係
「最初の関門は資本連結。支配獲得日のクラフトリビングの純資産は、資本金20,000,000円と利益剰余金10,000,000円で合計30,000,000円。うちはその80パーセントを26,000,000円で買った」
拓海は電卓を叩いた。純資産30,000,000円の80パーセントは24,000,000円。それを26,000,000円で取得したから、差額は2,000,000円。
「この差額、見覚えあります。のれんですね。合併のときと同じだ」
「そのとおり。そして残り20パーセント分、30,000,000円かける20パーセントの6,000,000円は、うち以外の株主の取り分。非支配株主持分として純資産に計上する。連結上は、子会社の資本とうちの投資は内輪の関係だから、相殺して消すの」
借方(左)
貸方(右)
「のれんは合併のときと同じく、20年以内で規則的に償却。ここまでは、いわば開幕戦ね」
日野の自慢の取引が、消える
期中、日野の目論見どおり、クラフトリビングの工房家具はアオバ商事の卸売ルートで飛ぶように売れた。この1年でクラフトリビングからアオバへの販売は5,000,000円にのぼる。
決算期。連結精算表に向かう拓海に、課長が言った。
「その5,000,000円、連結上は消すわよ」
「ぜんぶですか!? 日野さんが聞いたら泣きますよ」
「グループをひとつの会社とみなすんでしょう。ひとつの会社の中で、工房から倉庫に品物を動かしただけ。外部に売るまでは、グループの売上とは言えない。子会社の売上高と、親会社の売上原価を相殺するの」
借方(左)
貸方(右)
「大丈夫、外部のお客さまに売れた分はちゃんと連結の売上に残る。消えるのは身内同士の取引だけよ」
アップストリームの未実現利益
もうひとつ、罠が残っていた。クラフトリビングから仕入れた家具のうち、500,000円分が期末のアオバの倉庫に売れ残っている。クラフトリビングの利益率は20パーセントだ。
「ということは、この在庫500,000円の中には、クラフトリビングが上乗せした利益100,000円が入ってます。……これも、まだ外部に売れてない」
「そう。グループ内で付けた利益は、外に売れるまでは未実現利益。商品の帳簿価額から取り除いて、その分だけ売上原価を増やす」
借方(左)
貸方(右)
「そして今回の販売の向きに注目。子会社から親会社へ売るアップストリームよ。消した利益100,000円は、子会社の利益を減らしたことになる。子会社の利益には非支配株主の取り分があるでしょう?」
「20パーセント分は、非支配株主にも負担してもらう……ってことですか」
「そのとおり。100,000円の20パーセント、20,000円を非支配株主持分に負担させる」
借方(左)
貸方(右)
「親会社から子会社へ売るダウンストリームなら、消した利益は全額親会社の負担で、この按分はしない。上りか下りか、向きの確認を絶対に忘れないこと」
ダウンストリーム(親から子へ)
- •利益を付けたのは親会社
- •未実現利益は全額親会社が負担
- •非支配株主への按分はしない
アップストリーム(子から親へ)
- •利益を付けたのは子会社
- •未実現利益は子会社の利益の減少
- •非支配株主持分にも持分割合で負担させる
ひとつになった決算書
数週間後、初めての連結財務諸表が完成した。単純合算では膨らんで見えた売上高が、内部取引の消去でひと回り引き締まり、グループが外の世界から本当に稼いだ数字だけが残っている。
役員会議のあと、日野が経理部に顔を出した。
「おい、俺の5,000,000円が決算書から消えたって本当か」
「消えたんじゃなくて、まだ『グループの外』に出てないだけです。クラフトリビングの店頭でお客さまに売れた分は、ちゃんと載ってますよ」
「……ま、いいさ。来期は倉庫に残さず売り切るまでだ」
その意気だ、と拓海は思う。営業が外の世界から稼ぎ、経理がそれを正しく映す。ひとつになった決算書は、大きくなったアオバグループの、新しい物語の1ページ目だった。
この物語の学び
- 連結財務諸表は、親会社と子会社をひとつの会社とみなして作成する。単純合算のあと、内輪の関係を連結修正仕訳で消去する
- 資本連結では子会社の資本と親会社の投資(子会社株式)を相殺し、差額はのれん、他の株主の持分は非支配株主持分とする
- グループ内部の売上高と売上原価は相殺消去する。外部に販売するまではグループの売上にならない
- 期末在庫に含まれるグループ内利益は未実現利益として消去する。アップストリーム(子から親への販売)では、消去額を持分割合に応じて非支配株主持分にも負担させる
物語で流れをつかんだら、教材で連結修正仕訳の型を整理し、問題集で資本連結から未実現利益の消去まで練習してみましょう。
