会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

アオバ商事、システム開発はじめました — 拓海、ソフトウェア仮勘定と出会う

在庫管理システムの開発が始まったアオバ商事。着手金を費用にしかけた新人経理・拓海が、ソフトウェア仮勘定と研究開発費の線引きを学ぶ物語。

誤出荷、月10件

「経理部さあ、なんとかしてよ。北欧食器のセット、また違う色を送っちゃったんだって」

営業部のエース・日野が、経理部の島に顔を出してぼやいた。インテリア雑貨の卸売会社、株式会社アオバ商事。扱う商品は8,000品目を超えるのに、在庫管理はいまだに表計算ソフトと手書きの棚札が頼りだ。誤出荷は月10件を下回らない。

「うちに言われても……」と答えかけた新卒1年目の拓海の後ろで、経理課長の佐伯がファイルを閉じた。

「ちょうどいい知らせがあるわ。役員会で決まった。在庫管理システムを外部のベンダーに開発してもらう。契約金額は6,000,000円。窓口は経理部——つまり、拓海くん、あなたの仕事も増えるわよ」

着手金2,400,000円は「費用」なのか

4月、開発契約が結ばれ、着手金2,400,000円を小切手で支払った。拓海は請求書を前に、自信満々で仕訳を切った。借方は支払手数料。システム会社に払うお金なんだから、手数料みたいなものだろう。

伝票を一瞥した佐伯が、赤ペンを構えた。

「拓海くん。このシステム、来月には使い捨てるの?」

「まさか。何年も使いますよ。そのための投資だって役員会でも」

「そう、投資。何年も使って会社に貢献するものは、費用じゃなくて資産。形がなくても同じよ。自社で利用するソフトウェアは、将来の費用削減が確実なら無形固定資産に計上する」

「じゃあ借方はソフトウェア……」

「それも違う。まだ完成していないでしょう。建設中の建物を建設仮勘定にするのと同じで、制作中の支払額はソフトウェア仮勘定。完成して検収が済むまでは、この仮の勘定で待たせておくの」

4月 開発着手金の支払い(制作中は仮勘定)

借方(左)

ソフトウェア仮勘定2,400,000

貸方(右)

当座預金2,400,000

「仮勘定のうちは償却もしないから、そこも注意なさい。建物が建設中のあいだ減価償却しないのと同じ。費用化が始まるのは、完成して使い始めてからよ」

「資産にして、完成を待って、それから少しずつ費用にする……。長いお付き合いになりそうですね、この勘定」

日野が持ち込んだ「AIの実験」

夏のある日、日野がまた経理部にやってきた。今度は妙に上機嫌だ。

「聞いてよ。AIで雑貨の需要予測をする実験、企画が通ったんだ。うまくいくかは正直わからないけど、当たれば発注業務が変わる。検証専用の解析マシンが600,000円、外部の研究員への報酬が300,000円。これもさっきの、ソフトなんとか勘定ってやつでいいんでしょ?」

拓海は佐伯の顔をうかがった。課長は首を横に振る。

「それは資産にできない。新しい技術の研究開発は、成果が出るかどうか不確実。だから支出した期に全額を研究開発費として費用処理するのがルールよ」

「え、でも解析マシンは機械ですよ。固定資産では」

「いいところに気づいたわね。その機械が研究専用で、他の業務に転用できないなら、購入時に全額研究開発費。転用できるなら普通に固定資産計上して減価償却。『専用かどうか』が分かれ目よ」

研究専用機器600,000円も研究員報酬300,000円も発生時に費用処理

借方(左)

研究開発費900,000

貸方(右)

当座預金900,000

「同じシステムがらみのお金でも、こっちは資産で、そっちは費用ですか」

確実に使えるものは資産、不確実な挑戦は費用。会計は意外と正直なのよ」

10月1日、検収完了

半年の開発期間を経て、10月1日、在庫管理システム「アオバ・ストック」が検収を終えた。残額3,600,000円は月末払いの契約だ。佐伯が拓海に伝票を任せる。

「仮勘定を卒業させてあげて」

10月1日 完成・検収。仮勘定からソフトウェアへ振替

借方(左)

ソフトウェア6,000,000
合計6,000,000

貸方(右)

ソフトウェア仮勘定2,400,000
未払金3,600,000
合計6,000,000
自社利用ソフトウェアの勘定の一生
ソフトウェア仮勘定(制作中)ソフトウェア(完成・振替)ソフトウェア償却(決算で費用化)

決算日の宿題

3月31日、決算。佐伯が最後の問いを投げた。

「ソフトウェア6,000,000円、利用可能期間は5年。当期の償却額は?」

「6,000,000円割る5年で1,200,000円……あ、違う。完成は10月1日だから、当期に使ったのは10月から3月の6か月分。月割で1,200,000円×12分の6=600,000円です」

「記帳方法は?」

「無形固定資産だから残存価額ゼロ・定額法・直接法の3点セット。累計額の勘定は使わずに、ソフトウェアを直接減らします」

3月31日 決算整理。月割6か月分を直接法で償却

借方(左)

ソフトウェア償却600,000

貸方(右)

ソフトウェア600,000

「合格。……ちなみに日野くんのAI実験、需要予測の精度はどうだったと思う?」

「どうでした?」

「雨の日は青い食器が売れる、という結論だけが出たそうよ。費用処理しておいて正解だったわね」

この物語の学び

  • 自社利用目的のソフトウェアは、将来の費用削減が確実なら無形固定資産。制作中の支払額はソフトウェア仮勘定で処理し、完成・検収の時点でソフトウェア勘定へ振り替える(残額の後払いは未払金)
  • 研究開発のための支出は成果が不確実なので、発生時に全額を研究開発費として費用処理。研究専用で転用できない機器は資産計上しない
  • 無形固定資産の償却は残存価額ゼロ・定額法・直接法の3点セット。期中に取得(完成)したら月割計算
  • 「確実に使える資産」と「不確実な挑戦の費用」の線引きこそが、この単元の核心

物語で流れをつかんだら、教材で償却ルールを整理し、問題集で仮勘定の振替と月割計算を練習してみましょう。