会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

新倉庫と老トラックの最後の日 — 建設仮勘定と200%定率法

新倉庫の建設と10年働いたトラックの引退が重なった期首。建物になる前のお金の置き場所、200%定率法、そして除却の仕訳を拓海が学ぶ。

着工の日、科目がない

株式会社アオバ商事は、増え続ける在庫に耐えかねて新倉庫の建設を決めた。請負金額は12,000,000円。着工にあたり、建設会社へ着手金4,000,000円を小切手で支払う。

新卒1年目の拓海(たくみ)は、伝票を前に固まった。

「建物……を買ったわけじゃないですよね。まだ更地ですし。でも支払手数料でも前払費用でもないし……この4,000,000円、置き場所がありません」

経理課長の佐伯(さえき)が即答する。

建設仮勘定。工事中の支払いを、完成まで一時的にプールしておく資産の科目よ。仮、と付くけどれっきとした固定資産」

着手金の支払い: 完成前は建設仮勘定へ

借方(左)

建設仮勘定4,000,000

貸方(右)

当座預金4,000,000

「建物という科目を使うのは、完成して引渡しを受けた日から。まだ使えない建物は、減価償却もしない。だから完成までは別の科目で待たせておくの」

工事の進行に合わせて中間金4,000,000円も支払い、建設仮勘定は8,000,000円に積み上がった。そして半年後、倉庫は完成。引渡しと同時に残額4,000,000円を支払った。

完成・引渡し: 建設仮勘定を建物へ振り替える

借方(左)

建物12,000,000
合計12,000,000

貸方(右)

建設仮勘定8,000,000
当座預金4,000,000
合計12,000,000

「ここでようやく建物デビュー。減価償却のスタートも、使い始めたこの日からよ」

10年選手のトラック、引退へ

新倉庫の完成と入れ替わるように、配送用トラックの引退が決まった。営業部の日野(ひの)が長年乗り回してきた1台だ。

「こいつとは全国を回ったんだけどなあ。で、いくらで売れる?」

「日野さん、査定の結果、値段つきませんでした。走行距離が……」

このトラック、取得原価は2,000,000円。3年前の期首に購入し、200%定率法(耐用年数5年)で償却してきた。当期首に使用をやめてスクラップにする。部品の一部は倉庫の備品修理用に使えるため、処分価値は50,000円と見積もられた。

「拓海くん、まず200%定率法の復習。償却率はどう決める?」

「定額法の償却率の200%です。耐用年数5年なら、1 ÷ 5 × 200% で、0.4」

「そう。帳簿価額に毎年0.4を掛ける。最初にどかっと償却して、年々小さくなっていく」

200%定率法による3年間の減価償却
  1. 1償却率 = 1 ÷ 耐用年数5年 × 200% = 0.4
  2. 21年目: 2,000,000 × 0.4 = 800,000(帳簿価額 1,200,000)
  3. 32年目: 1,200,000 × 0.4 = 480,000(帳簿価額 720,000)
  4. 43年目: 720,000 × 0.4 = 288,000(帳簿価額 432,000)

前期末、つまり3年目の決算で切った仕訳はこうだった。

3年目の決算: 期首帳簿価額720,000円 × 0.4

借方(左)

減価償却費288,000

貸方(右)

車両運搬具減価償却累計額288,000

「累計額は800,000 + 480,000 + 288,000で1,568,000円。帳簿価額は432,000円まで下がってる」

「捨てる」にも仕訳がいる

「じゃあ本題。売れなかったトラックを帳簿から消す。除却の仕訳よ。考える順番は、消すもの、残るもの、差額」

拓海は指を折りながら整理した。消すのは車両運搬具2,000,000円と、累計額1,568,000円。残るのは、部品としての価値50,000円——これは貯蔵品という資産になる。そして帳簿価額432,000円と貯蔵品50,000円の差額382,000円が、固定資産除却損だ。

トラックの除却: 処分価値は貯蔵品、差額は除却損

借方(左)

車両運搬具減価償却累計額1,568,000
貯蔵品50,000
固定資産除却損382,000
合計2,000,000

貸方(右)

車両運搬具2,000,000
合計2,000,000
取得原価2,000,000円の行き先
償却済み 1,568,000
貯蔵品 50,000
除却損 382,000

「借方合計も2,000,000円。ぴったり消えました」

「このバーを見なさい。取得原価のうち1,568,000円は、3年間の減価償却費としてすでに毎期の費用になってきた。最後に残った帳簿価額のうち、使える部品は貯蔵品として生き残り、残りが除却損。トラックの一生が、そのまま費用配分の歴史なのよ」

「もし期中に除却してたら、どうなりますか?」

「いい質問。その場合は期首から除却日までの減価償却費を月割で計上してから、同じ手順で消す。固定資産の問題は、まず『いつ買って、いつ手放したか』の時間軸を書くこと」

世代交代の朝

数日後、新しいトラックが納車された。日野は古いトラックのキーホルダーだけを外して、新車に付け替えた。

「経理的には除却損382,000円ですけど、日野さん的には?」

「プライスレス、って言いたいとこだけどな。新車の走りを見たら忘れたわ」

拓海は笑いながら、固定資産台帳の旧トラックの欄に「除却」と記録した。資産には寿命がある。買った日の仕訳と同じくらい、手放す日の仕訳がある——それを実感した期首だった。

この物語の学び

  • 建設中の支払いは建設仮勘定にプールし、完成・引渡し時に建物へ振り替える。完成前は減価償却しない
  • 200%定率法の償却率は「1 ÷ 耐用年数 × 200%」。期首帳簿価額に償却率を掛けて毎期の償却費を計算する
  • 除却の仕訳は「取得原価と累計額を消す → 処分価値があれば貯蔵品に計上 → 差額を固定資産除却損」の順で組み立てる
  • 期中除却なら、除却日までの減価償却費を月割で計上してから処理する

物語で流れをつかんだら、教材で固定資産の応用論点を整理し、問題集で手を動かしてみましょう。