会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

白いライトバンと改装工事 — 美咲、減価償却という発明に出会う

店の改装と中古車の購入で、ハコニワに大型出費の秋がやってきた。「今月だけ大赤字になっちゃう」と頭を抱える美咲が、費用を使う年月に配る「減価償却」の考え方に感動する物語。

大型出費の秋

10月。雑貨店ハコニワは、開店10年目にして大きな決断をした。手狭になった店の改装と、配達用の車の購入である。

きっかけはホテルとの取引だった。大口の納品が増え、宅配便代がかさむ。それに、せっかく評判が上がってきたのに、売り場の棚はもう限界だった。

改装工事は10月のはじめに完了した。壁を抜いて売り場を広げ、造り付けの陳列棚を新設。工事代金600,000円は普通預金から支払った。

そして中古車販売店で見つけたのが、白いライトバンだ。車両本体500,000円。これに登録手数料や整備費用などの諸費用40,000円がかかり、合計540,000円。支払いは月末に振り込む約束である。

納車の日、遥さんはボンネットを撫でながらご機嫌だった。一方の美咲は、電卓を握りしめて真っ青になっていた。

「遥さん……今月の支出、合計114万円です。ハコニワの月の利益って、いつも20万円くらいですよね。今月だけで、5年分くらいの利益が吹き飛ぶ計算に……」

「ええっ、うちって今月大赤字なの!?」

「その計算は、嘘の赤字だよ」

翌日、青い顔のまま相談に来た美咲に、宇野先生はきっぱりと言った。

「安心しなさい。その114万円を今月の費用にするのは、むしろ間違いだ」

「間違い……? 実際にお金は出ていったのに?」

「考えてごらん。あの改装した売り場も、白いライトバンも、今月使い切って捨てるものかい? 棚は10年先も商品を並べているし、車は何年も配達で働く。長く使って収益を生み続けるものは、買った時に費用にせず、まず資産として記録する。これが固定資産だ」

「資産……たしかに、財産ですもんね」

「そう。改装のように建物の価値を高める支出は建物に、車は車両運搬具に。そして大事なのは、購入代価に付随費用を足した取得原価で記録することだ。商品仕入の引取運賃と同じ発想だよ」

10月5日 店舗の改装: 価値を高める支出は建物(資産)に

借方(左)

建物600,000

貸方(右)

普通預金600,000
10月10日 ライトバン購入: 諸費用込み540,000円が取得原価。後払いは未払金

借方(左)

車両運搬具540,000

貸方(右)

未払金540,000

「あれ、後払いなのに買掛金じゃないんですか?」

「いいところに気づいた。買掛金は商品の仕入代金専用。車のような商品以外のものの後払いは未払金という別の負債で記録する。売った側の立場なら、売掛金ではなく未収入金だ」

費用は、使う年月に配られる

「でも先生、資産に記録したままだと、車代はいつまでも費用にならないんですか? タダで車を使ってることになりませんか」

「実にいい質問だ。ここからが、簿記の歴史でも指折りの発明——減価償却の話だよ」

先生はホワイトボードに白いバンの絵を描いた(かなり下手だった)。

「このバンは、走るたびに少しずつ古びて、価値を減らしていく。そこで、取得原価を、使える年数(耐用年数)に分けて、毎年少しずつ費用にしていく。均等に割る方法を定額法という。バンの耐用年数を6年、使い終わった後の価値(残存価額)をゼロとすると——」

「540,000円を6年で割って、1年あたり90,000円……あっ、それなら1年の費用は9万円だけ。嘘の大赤字が消える!」

「その通り。ただしハコニワの決算は3月末。バンを買ったのは10月だから、今年度に使ったのは10月から3月の6か月分。月割りで計算する」

取得原価540,000円のゆくえ(耐用年数6年=72か月)
当期分 6か月 45,000円
翌期以降 66か月 495,000円

「540,000円を6年で割った90,000円の、さらに12分の6。つまり今年度の減価償却費は45,000円だ。仕訳は決算の日にこう書く」

3月31日 決算: 定額法・月割りで6か月分を費用に計上(間接法)

借方(左)

減価償却費45,000

貸方(右)

車両運搬具減価償却累計額45,000

「げんかしょうきゃくるいけいがく……貸方が車両運搬具そのものじゃないんですね」

「3級で学ぶ間接法では、資産を直接減らさず、減価償却累計額という『価値の目減りメーター』を別に立てて積み上げていく。帳簿を見れば、取得原価540,000円と、これまでの目減り45,000円が両方分かる。建物の改装分も、同じように耐用年数にわたって償却していくよ」

5年後のハコニワへ

帰り道、美咲は妙に晴れやかな気分だった。夜、閉店後の店で遥さんに一部始終を報告する。

「つまりね、遥さん。今月の114万円は、今月だけの負担じゃないんです。改装した棚も白いバンも、これから何年も働いてくれる。だから費用も、働いてくれる年月に少しずつ配っていく。未来の売上を支えるものは、未来の費用にもなる——減価償却って、そういう考え方なんです」

「へえ……なんだか、いい話ね。あのバン、5年後もうちの子として頑張ってくれてるってことか」

「はい。帳簿の上でも、ちゃんと毎年働いた分だけ費用になって、価値のメーターが刻まれていきます。……私、簿記ってただの記録だと思ってたけど、時間の流れまで写し取るんですね」

窓の外では、白いライトバンが街灯に照らされていた。明日の朝も、あの車はホテルへの納品に走る。

この物語の学び

  • 長期間使うものは買った時に費用にせず、取得原価(購入代価+付随費用)で固定資産に計上する
  • 商品以外の後払いは買掛金ではなく未払金(売る側なら未収入金)
  • 減価償却は取得原価を耐用年数に配分する仕組み。定額法なら「取得原価÷耐用年数」、期中取得は月割り
  • 3級の記帳は間接法。借方に減価償却費、貸方に減価償却累計額を立て、資産の帳簿価額は取得原価から累計額を引いて読む

物語で考え方をつかんだら、教材で定額法の計算式と間接法の記帳を整理し、問題集で月割り計算を練習してみましょう。