会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

消えた20個のアロマランプ — 決算棚卸と5つの利益

3月末、決算の実地棚卸で在庫が帳簿より足りない。盗難を疑い青ざめる拓海が、棚卸減耗損と商品評価損、そして損益計算書の5つの利益の意味を学ぶ物語。

3月31日、倉庫の夜

年度末の3月31日。アオバ商事の倉庫では、決算恒例の実地棚卸が行われていた。合併と新サービスで駆け抜けた1年の締めくくりに、拓海は倉庫番の大森さんと組んで、商品を1つずつ数えていく。

担当は主力商品のアロマランプ。帳簿上の期末在庫は、1個あたり原価800円が500個で400,000円のはずだった。

「……498、499、480。えっ」

数え直しても、480個。もう一度数えても、480個。帳簿より20個も足りない。

「大森さん、これ、盗難じゃないですか!? 警察に……」

「落ち着け、新人くん」

大森さんは苦笑いした。「配送で割れたやつ、展示で貸し出したまま戻ってないやつ、伝票の書き間違い。倉庫ってのはな、1年動かせば多少は帳簿とズレるもんなんだ」

ズレに名前をつける

翌朝、拓海が報告すると、佐伯課長は驚きもしなかった。

「帳簿500個、実地480個。だから実地棚卸をやるのよ。帳簿の上の在庫と、現実の在庫を突き合わせるために。差の20個分は棚卸減耗損という費用にする。20個かける原価800円で16,000円ね」

「損、で済ませていいんですか」

「済ませていいの。原因を調べて再発を防ぐのは倉庫管理の仕事。会計の仕事は、現実に合わせて帳簿を正すこと。それから拓海くん、もうひとつ。残った480個、全部定価で売れると思う?」

課長が指したのは、倉庫の窓際に積まれていた在庫の写真だった。日焼けで箱が色あせている。仕入先に聞くと、この状態なら売価を下げるしかなく、正味売却価額は1個750円が限度だという。

「原価800円のものが750円でしか売れない。価値が下がった分は商品評価損。480個かける50円で24,000円。決算では、時価が原価より下がっていたら、下がった時価まで帳簿価額を切り下げるの」

拓海は決算整理仕訳を書いた。売上原価の計算で期末商品400,000円を繰越商品に振り替えたあと、そこから2つの損を取り出す。

決算整理 数量の不足分(20個×800円)

借方(左)

棚卸減耗損16,000

貸方(右)

繰越商品16,000
決算整理 価値の下落分(480個×50円)

借方(左)

商品評価損24,000

貸方(右)

繰越商品24,000

「貸借対照表に載る商品は、480個かける750円で360,000円。帳簿の400,000円がどこへ行ったか、図にするとこうなるわね」

帳簿棚卸高400,000円のゆくえ
貸借対照表の商品 360,000
商品評価損 24,000
棚卸減耗損 16,000

「なお今回の減耗は毎年起こる正常な範囲だから、うちの方針では2つとも売上原価の内訳に含める。仕入勘定に振り替えておいて」

決算整理 売上原価へ算入

借方(左)

仕入40,000
合計40,000

貸方(右)

棚卸減耗損16,000
商品評価損24,000
合計40,000

5つの利益は、5つの物語

決算作業が進み、拓海は初めて損益計算書の作成を任された。出来上がった表を眺めていると、利益と名のつく行が5つもあることに、いまさらながら気づく。

「課長、利益って、結局どれが本当の利益なんですか」

「全部本物。5つの利益は、それぞれ別の質問に答えてるの」

課長はホワイトボードに、上から順に書き出した。

損益計算書・5つの利益の読み方
  1. 1売上総利益 — 商品そのものの稼ぐ力。売上高から売上原価を引いた粗利
  2. 2営業利益 — 本業の稼ぐ力。給料や広告費など販売費及び一般管理費を引いた後
  3. 3経常利益 — 会社の通常の実力。受取利息や支払利息など営業外損益を加減した後
  4. 4税引前当期純利益 — 固定資産売却損益や災害損失など特別損益まで含めた成績
  5. 5当期純利益 — 法人税等を差し引いた、株主に帰属する最終の利益

「たとえば今回の棚卸減耗損を売上原価に入れると、売上総利益の段階から利益が減る。もし異常な災害でごっそり商品が失われたら、特別損失だから、影響が出るのは税引前当期純利益から下。どの段の利益が削られるかで、損の性格が読めるのよ」

「同じ40,000円の損でも、載る場所で意味が変わるんですね」

「そういうこと。財務諸表は数字の羅列じゃなくて、上から下へ読む物語。銀行も株主も、そうやってうちの1年を読むの。精算表で決算整理を集計して、損益計算書と貸借対照表に仕上げるまでが決算。数え間違いひとつでも、この物語の結末が変わるのよ」

締めくくりの1枚

4月最初の役員会議。拓海が数字を固めた損益計算書と貸借対照表、そして株主資本等変動計算書が配られた。合併で大きくなった資産、新サービスが積み上げた役務収益、そして倉庫の20個分の小さな損まで、1年のすべてが3枚の書類に収まっている。

会議室を出ると、日野が待っていた。

「なあ、うちの決算、どうだった?」

「営業利益、過去最高。……日野さんの売上も、ちゃんと物語になってましたよ」

「なんだよそれ。まあ、悪くない響きだな」

この物語の学び

  • 実地棚卸で判明した数量不足は棚卸減耗損(不足数量×原価)、時価の下落は商品評価損(実地数量×原価と正味売却価額の差)として処理する
  • 貸借対照表の商品は実地数量×正味売却価額まで切り下げた金額で表示される
  • 正常な範囲の棚卸減耗損・商品評価損は、問題の指示に従い売上原価の内訳(仕入勘定へ振替)等として表示する
  • 損益計算書の5つの利益(売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益)は段階ごとに意味が異なり、費用がどの段に載るかで利益への影響が変わる

物語で流れをつかんだら、教材で計算パターンを整理し、問題集で棚卸減耗損と商品評価損の算定を練習してみましょう。