📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計
初めての決算・前編 — 「しーくり くりしー」の呪文
3月31日、ハコニワ初の決算がやってきた。売上原価の振替え、余った切手、そして謎の現金過不足。決算整理に挑む美咲の物語。
3月31日、店を閉めてから始まる仕事
「本日の営業はこれにて終了! そして——株式会社ハコニワ、第1期の決算、開始!」
3月31日の夜。シャッターを下ろしたハコニワに、遥さんの号令が響いた。テーブルには元帳と電卓、そして応援に駆けつけた宇野先生の姿。株式会社ハコニワにとって、初めての決算の夜だ。
「決算はね、日々の記録をそのまま集計するだけでは終わらない。帳簿の数字を、当期の実態に合わせて修正する作業が必要なんだ。これを決算整理という。今夜はその中でも大物からいこう。——売上原価だ」
しーくり、くりしー
「美咲さん、仕入勘定の残高は?」
「6,240,000円です。今年仕入れた金額の合計ですね」
「では質問。当期に売れた商品の原価も、その金額かな?」
美咲は店の棚を見回した。並んでいる食器や文房具。そうか、仕入れたけどまだ売れていない商品がある。逆に、期首にすでに棚にあった商品——会社設立のときに引き継いだ在庫は、今年仕入れていないのに今年売れている。
「仕入れた額と、売れた分の原価は、ズレてるんですね」
「その通り。だから決算で調整する。まずは実地棚卸し——期末の在庫を実際に数えよう」
そこからが大仕事だった。遥さんと2人、棚の食器を1枚ずつ、引き出しの文房具を1本ずつ数えていく。商品有高帳と突き合わせながら集計すると、期末在庫は原価で220,000円。期首の在庫は、会社設立のときに引き継いだ180,000円だ。
「期首の在庫180,000円は繰越商品勘定に眠っているから、これを仕入勘定に加える。期末の在庫220,000円は、仕入勘定から抜いて繰越商品勘定へ移す。この2本の仕訳には有名な呪文がある——しーくり、くりしー」
借方(左)
貸方(右)
借方(左)
貸方(右)
「仕入(しいれ)・繰越商品(くりこししょうひん)、繰越商品・仕入。頭文字で、しーくり くりしー……ほんとだ、唱えたくなる」
これで仕入勘定の残高は6,200,000円。「当期に売れた商品の原価」に生まれ変わった。
「順番も呪文の通りだよ。先にしーくり、後にくりしー。そして繰越商品勘定には期末在庫の220,000円だけが残り、来期の決算では今度がこれが『期首の在庫』として登場する。決算は1回きりの作業じゃなく、年度から年度へのバトンリレーなんだ」
「今年の『くり』が、来年の『しー』になる……。よくできてますね」
引き出しの中の切手たち
「次。通信費の中身を確認しよう。切手やはがきは、買ったときに通信費で処理していたね。使わずに残っている分はないかい?」
美咲がレジ下の引き出しを開けると、切手のシートが出てきた。数えると3,400円分。
「これは……もう費用にしちゃってますけど、まだ使ってません」
「使っていないなら、それはまだ費用ではなく財産だ。決算では貯蔵品という資産の科目に振り替える。ちなみに収入印紙の残りも同じ扱いだよ」
借方(左)
貸方(右)
「翌期首には再振替をして、通信費に戻す。使う年の費用にするためだね」
宙ぶらりんの2,000円に決着を
最後に残ったのは、美咲がずっと気にしていた勘定だった。——現金過不足、借方残高2,000円。
2月のある日、レジの実際の現金が帳簿より2,000円少なかった。原因が分からず、とりあえず現金過不足という勘定で仮置きしていたのだ。
「調査の結果は?」
「1,500円は、遥さんが配達で使った電車代のメモが出てきました。記帳漏れです。でも残りの500円は……どうしても分かりませんでした」
「よく調べたね。判明した分は正しい科目——旅費交通費に振り替える。そして、どうしても分からない分は、決算で雑損として処理する。もし現金が多すぎた場合の不明分なら雑益だ。仮置きの勘定を、決算をまたいで残してはいけないんだよ」
借方(左)
貸方(右)
「これで現金過不足はゼロ。……なんだか、部屋の隅に積んであった段ボールを全部片づけたみたいな気分です」
「遥さんには、レシートのない支払いをしたら必ずメモを残すよう、来期こそ徹底してもらわないとね」
「うぐ……」と、お茶を運んできた遥さんが小さくうめいた。
「いい表現だ。決算整理はまさに帳簿の大掃除。——さあ、掃除が終われば、いよいよ仕上げだ。この数字たちが1枚の成績表になる。それは後編のお楽しみだね」
夜のハコニワで、決算の物語はまだ続く。
この物語の学び
- 決算整理は、帳簿の数字を当期の実態に合わせて修正する手続き
- 売上原価は「期首在庫+当期仕入−期末在庫」。仕訳はしーくり(仕入/繰越商品)・くりしー(繰越商品/仕入)
- 未使用の切手・収入印紙は決算で**貯蔵品(資産)**へ振り替え、翌期首に再振替する
- 現金過不足は決算までに精算する。原因判明分は正しい科目へ、不明分は雑損または雑益へ
物語で流れをつかんだら、教材でルールを整理し、問題集で手を動かしてみましょう。
