📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計
電気代はどの製品のコストなのか — 紗希、経費の四つの顔を知る
工場の電気代をめぐって工場長と対立する紗希。測定経費・月割経費という把握方法の違いと、外注加工賃だけが直接経費になる理由を学ぶ物語。
電気代320,000円の行き先
7月の初め、紗希の机に電力会社からの請求書が届いた。6月分の工場電力料、320,000円。
ちょうど通りかかった大森工場長が、請求書をのぞき込んで言った。
「6月は例のB7型ギアの大口注文で切削機をぶん回したからな。その電気代はB7の原価に載せておけよ。電気を食ったのはあの機械なんだから」
「ええと……気持ちは分かるんですけど、多分それ、できません」
「なんだと?」
紗希は工場の配電盤を思い浮かべた。電気のメーターは工場の入口に一つしかない。切削機も、組立ラインの照明も、事務所のエアコンも、全部まとめて320,000円だ。
「この320,000円のうち、B7型を削るのに使った分が何円か、伝票や記録で言い切れないんです。言い切れないコストを特定の製品に載せたら、原価がその場の気分で決まってしまいます」
「ふん……じゃあどうするんだ。まさか経理の胸三寸で適当に割り振るんじゃあるまいな」
「そんなことをしたら現場に説明できません。材料費・労務費と同じです。どの製品の分か言い切れないものは間接経費として製造間接費に集めて、あとで理屈の通った基準でまとめて配ります」
経費には四つの顔がある
夕方、郡司さんが紗希のメモを見て頷いた。
「電気代の扱いはそれでいい。ついでに整理しておこう。材料費でも労務費でもない原価が経費だが、経費は金額をどうやって把握するかで四つに分かれる」
- 1支払経費: 請求書や領収書の支払額で把握する(外注加工賃、修繕料など)
- 2月割経費: 年額や数か月分をまとめて計算し、1か月分に割って計上する(減価償却費、賃借料、保険料など)
- 3測定経費: メーターの測定量にもとづいて計上する(電力料、ガス代、水道料など)
- 4発生経費: 実際の発生額で把握するが支払いを伴わない(材料の棚卸減耗費など)
「電力料は測定経費だ。請求書の支払日じゃなく、メーターで測った当月の使用分を当月の原価にする。支払いが翌月でも関係ない」
借方(左)
貸方(右)
「それから機械の減価償却費。年間2,400,000円だが、年に一度まとめて計上したら、その月だけ原価が跳ね上がってしまう。だから12で割って毎月200,000円ずつ。これが月割経費だ」
借方(左)
貸方(右)
「火災保険料の年払い240,000円も同じで、月割にして毎月20,000円。払った月に全額ではなく、使った月に均等に。原価計算期間は1か月、というリズムを守るためだね」
たった一つの例外、外注加工賃
翌週、B7型ギアの歯切り加工を頼んでいる協力工場から請求書が届いた。加工賃150,000円。紗希はいつもの調子で製造間接費に計上しようとして、ふと手が止まった。
請求書には、こう書いてあった。製造指図書#204(B7型ギア)分、歯切り加工600個。
「郡司さん、これ……どの製品のための経費か、完全に言い切れます」
「気づいたね。外注加工賃は直接経費だ。特定の製造指図書のために頼んだ加工だから、伝票の段階で製品との結びつきがはっきりしている。だから製造間接費を経由せず、仕掛品に直行させる」
借方(左)
貸方(右)
直接経費(仕掛品へ直行)
- •外注加工賃: 指図書#204のための加工と言い切れる
- •特許権使用料: この製品を作るための権利使用料
- •伝票の段階で行き先の製品が決まっている
間接経費(製造間接費へ)
- •電力料・ガス代・水道料(測定経費)
- •減価償却費・賃借料・保険料(月割経費)
- •棚卸減耗費(発生経費)
- •工場全体の共通コストで、製品ごとに分けられない
「経費のほとんどは間接経費で、直接経費は外注加工賃くらいのもの、と覚えていい。判断基準は電気代のときと同じ。どの製品のためのコストか、証拠をもって言い切れるかどうかだ」
工場長の宿題
月次報告で、紗希は経費の一覧を工場長に見せた。
「電気代はB7に直接載せられません。でも、載せなかった代わりに製造間接費として集計して、あとで各製品に配賦します。B7がたくさん機械を使ったなら、配賦の段階でちゃんとB7に多く負担してもらう仕組みです」
「……回り道に見えるが、行き先の分からん金を勘で振り分けるよりは筋が通っとるか」
工場長はそう言うと、にやりと笑った。
「なら次はその『理屈の通った配り方』とやらを説明してもらおうじゃないか。楽しみにしとるぞ」
紗希の次の戦いは、製造間接費の配賦になりそうだ。
この物語の学び
- 経費は金額の把握方法で支払経費・月割経費・測定経費・発生経費の四つに分類される
- 電力料などの測定経費は支払額でなくメーターの測定分を当月の原価にする。減価償却費などの月割経費は年額を月割りして毎月計上する
- 直接経費になるのは外注加工賃(や特許権使用料)くらいで、どの製品のためか伝票で言い切れることが条件
- 言い切れない経費はすべて間接経費として製造間接費に集め、後日まとめて配賦する
物語で電気代の行き先に納得したら、教材で4分類を整理し、問題集で経費の月割計算と仕訳を練習しましょう。
