会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

増資の日 — 別段預金の謎と、配当にかかるブレーキ

新倉庫の建設資金を株式発行で調達することになったアオバ商事。申込証拠金と別段預金、そして配当時の準備金積立てルールを拓海が学ぶ物語。

「うち、株を出すことになった」

株式会社アオバ商事の朝礼で、社長が高らかに宣言した。手狭になった物流倉庫を建て替える。その資金8,000,000円は、新株を発行して調達する——。

朝礼後、営業部の日野が経理部に寄ってきた。

「増資ってやつでしょ。銀行から借りるのと何が違うの?」

「借入金は返す義務のある負債です」と新卒1年目の拓海。「株式の発行は、株主から出資してもらう純資産……ですよね、課長」

経理課長の佐伯がうなずく。

「そう。返済義務のないお金。その代わり、会社は株主のものになっていく。そして純資産の会計には、会社法という法律のルールが色濃く出る。今回の増資は、その入門編としては上出来の教材よ」

申込証拠金と、聞き慣れない預金

新株は200株、1株の払込金額は40,000円。申込期間が設けられ、申込者は申込みと同時に払込金額を証拠金として払い込む段取りだ。申込期間が終わった日、拓海は入金記録を前に手が止まった。

「課長、8,000,000円入金されていますが……これ、資本金でいいんですか? あと振込先が、普段の当座預金じゃなくて『別段預金』という口座なんですが」

「両方いい質問ね。まず、申込期間中はまだ誰に何株割り当てるか決まっていない。抽選に外れて返金する相手がいるかもしれないお金を、資本金にはできないでしょう。だから一時的に株式申込証拠金という科目で受け入れる」

「じゃあ別段預金は?」

「返金するかもしれないお金を会社の普段のお金と混ぜたら、うっかり使ってしまいかねない。だから通常の預金と区別して管理する専用の資産科目、それが別段預金。証拠金とセットで覚えなさい」

申込期間中 証拠金の受入れ。まだ資本金にはしない

借方(左)

別段預金8,000,000

貸方(右)

株式申込証拠金8,000,000

払込期日 — 資本金はいくらにする?

払込期日が来て、200株すべての割当てが確定した。拓海が「証拠金8,000,000円を全額資本金に振り替えます」と伝票を書きかけたところで、佐伯が取締役会の議事録を差し出した。そこには「会社法が認める最低額を資本金とする」とある。

「原則は払込金額の全額を資本金。でも会社法は、2分の1までは資本金にせず資本準備金とすることを認めている。うちは容認の最低ラインを選んだから、資本金4,000,000円、資本準備金4,000,000円よ」

「どうしてわざわざ資本金を小さく?」

「資本金の額は登記されて、税金や各種規制の基準にもなる。大きければ立派というものでもないの。ここは経営の選択。経理は議事録の指示を正確に仕訳に落とすのが仕事よ」

払込期日 会社法が認める最低額を資本金とする

借方(左)

株式申込証拠金8,000,000
合計8,000,000

貸方(右)

資本金4,000,000
資本準備金4,000,000
合計8,000,000

同じ日、別段預金の役目も終わり、当座預金へ預け替えた。

別段預金は役目を終えて当座預金へ

借方(左)

当座預金8,000,000

貸方(右)

別段預金8,000,000

6月の株主総会 — 配当にはブレーキがある

増資から3か月後の定時株主総会で、繰越利益剰余金からの配当6,000,000円が決議された。このときのアオバ商事の純資産は、資本金40,000,000円、資本準備金4,800,000円、利益準備金5,000,000円。

「配当の仕訳は、繰越利益剰余金を減らして未払配当金……と、確か準備金の積立てが要るんですよね。配当額の10分の1だから600,000円を利益準備金に」

「惜しい。ブレーキにはブレーキの上限があるの」

佐伯はホワイトボードに計算式を書いた。

「準備金の積立ては、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまででいい。資本金40,000,000円の4分の1は10,000,000円。今ある準備金の合計は4,800,000円足す5,000,000円で9,800,000円。残り枠は200,000円しかない。配当額の10分の1の600,000円と比べて、小さいほうの200,000円を積み立てる」

株主総会 配当の決議。準備金は枠の残り200,000円まで

借方(左)

繰越利益剰余金6,200,000
合計6,200,000

貸方(右)

未払配当金6,000,000
利益準備金200,000
合計6,200,000

「そもそも、なんで配当のたびに積立てを強制されるんですか」

「会社の財産は株主だけのものじゃなく、債権者の引当てでもあるから。配当で財産が外に流れすぎないように、会社法が一定額を社内に留め置かせるの。準備金は配当へのブレーキ。そして4分の1でブレーキが十分効くから、それ以上は義務にしない。よくできたルールでしょう」

「あと課長、繰越利益剰余金から配当したら利益準備金でしたけど、もし、その他資本剰余金から配当したら……」

資本準備金を積み立てる。配当の源泉が資本なら資本の準備金、利益なら利益の準備金。元手と儲けを混ぜないのが純資産会計の大原則よ」

総会の帰り道、日野が拓海に耳打ちした。

「増資に配当にって、経理は総会シーズン大変だね。ところで俺の営業成績なら、特別ボーナス的な配当があっても……」

「日野さんは株主じゃなくて従業員です。それは賞与の話なので、また別の単元でやりました」

この物語の学び

  • 申込期間中の払込みは株式申込証拠金(まだ資本金にできない)で受け入れ、入金は別段預金で通常の預金と区別する。払込期日に資本金等へ振り替える
  • 株式発行の払込金額は原則全額を資本金、会社法の容認で2分の1まで資本準備金にできる。問題文の「原則か容認か」の指示を読み取る
  • 配当時は配当額の10分の1と「資本金の4分の1−準備金合計の残り枠」の小さいほうを準備金に積み立てる
  • 繰越利益剰余金からの配当は利益準備金、その他資本剰余金からの配当は資本準備金。資本と利益は混ぜない

物語で会社法のルールの意味をつかんだら、教材で株主資本の構成を整理し、問題集で準備金積立額の判定を練習してみましょう。