株式会社の純資産を攻略する — 増資・剰余金の配当・株主資本等変動計算書
株式会社の純資産は、簿記3級で学んだ「資本金と繰越利益剰余金」から一気に登場人物が増える論点です。しかし、資本金・準備金・剰余金の関係と会社法のルールさえ整理すれば、仕訳自体はシンプルです。この記事では、設立・増資から配当、株主資本等変動計算書までを順に見ていきます。
株主資本の全体像
純資産の中心は株主資本です。まずは構成を押さえましょう。
| 区分 | 内容 | 主な勘定科目 |
|---|---|---|
| 資本金 | 会社の元手の中核 | 資本金 |
| 資本剰余金 | 株主からの払込みのうち資本金以外 | 資本準備金、その他資本剰余金 |
| 利益剰余金 | 会社が稼いだ利益の蓄積 | 利益準備金、任意積立金、繰越利益剰余金 |
株主からの払込みに由来するもの(資本)と、利益に由来するもの(利益)を混ぜないというのが純資産会計の大原則です。
設立・増資の仕訳
株式を発行して払込みを受けたとき、原則は払込金額の全額を資本金とします。ただし会社法は、払込金額の2分の1までは資本金にせず資本準備金とすることを認めています(会社法の容認規定)。
原則
- •払込金額の全額を資本金とする
容認(会社法)
- •払込金額の2分の1までは資本準備金にできる
- •残りを資本金とする
例1: 原則処理
株式100株を1株50,000円で発行し、払込金は当座預金とした場合です。
借方(左)
貸方(右)
例2: 会社法が認める最低額を資本金とする場合
同じ条件で「会社法が認める最低額を資本金とする」と指示された場合、資本金は払込金額の2分の1です。
借方(左)
貸方(右)
問題文の指示が「原則」か「会社法の最低額(容認)」かで金額が変わるため、指示の読み取りが得点の分かれ目になります。
株式申込証拠金と別段預金
新株発行では、申込者から申込期間中に払い込まれた金額をいったん株式申込証拠金として受け入れ、入金は通常の預金と区別して別段預金で管理します。払込期日に株式を割り当てた時点で、資本金等へ振り替えます。
例3: 申込証拠金の受入れと振替
申込期間中に申込証拠金3,000,000円を受け入れたときの仕訳です。
借方(左)
貸方(右)
払込期日に全額を資本金とし、別段預金を当座預金に預け替えた場合は次のとおりです。
借方(左)
貸方(右)
借方(左)
貸方(右)
剰余金の配当と準備金の積立て
株主総会で配当が決議されたら、繰越利益剰余金を減らし、未払配当金(負債)を計上します。このとき会社法の規定により、配当額の10分の1を準備金として積み立てる必要があります。ただし積立ては無制限ではなく、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまででよいとされています。
積立額は次の2つを比べて小さいほうです。
| 比較する金額 | 計算方法 |
|---|---|
| 配当基準額 | 配当額 × 10分の1 |
| 積立可能額 | 資本金 × 4分の1 −(資本準備金 + 利益準備金) |
例4: 繰越利益剰余金からの配当
資本金20,000,000円、資本準備金2,400,000円、利益準備金2,500,000円の会社が、繰越利益剰余金から3,000,000円の配当を決議した場合を考えます。
- 配当基準額: 3,000,000円 × 10分の1 = 300,000円
- 積立可能額: 20,000,000円 × 4分の1 − (2,400,000円 + 2,500,000円) = 100,000円
小さいほうの100,000円を利益準備金として積み立てます。
借方(左)
貸方(右)
なお、その他資本剰余金から配当した場合は資本準備金を積み立てます。配当の源泉が資本か利益かで、積み立てる準備金も対応するのがルールです。
株主資本の計数変動
株主総会の決議により、株主資本の内部で金額を振り替えることができます。これを計数変動といい、会社の財産は1円も動きません。たとえば資本準備金1,000,000円を資本金に組み入れる場合の仕訳は次のとおりです。
借方(左)
貸方(右)
繰越利益剰余金の欠損を任意積立金で填補する振替なども同じ発想で処理できます。
株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の純資産の部の1年間の変動を、当期首残高・当期変動額・当期末残高の形で項目ごとにまとめた財務諸表です。増資・配当・当期純利益の振替など、この記事で学んだ仕訳がそのまま変動額の欄に反映されます。当期純利益は繰越利益剰余金の増加として記載される点を覚えておきましょう。
まとめ
- 払込金額は原則全額資本金、会社法の容認では2分の1まで資本準備金にできる
- 申込期間中の払込みは別段預金と株式申込証拠金で処理し、払込期日に振り替える
- 配当時は「配当額の10分の1」と「資本金の4分の1までの残り枠」の小さいほうを準備金に積み立てる
- 計数変動は株主資本内部の振替であり、財産の増減はない
準備金積立額の計算は本試験でも狙われる定番論点です。下の問題集で判定の手順を体に染み込ませましょう。
📚 試験で覚えるべき用語
- 資本金
- 株主からの払込みのうち会社の元手の中核となる純資産。株式発行時は原則として払込金額の全額を資本金とする。
- 資本準備金
- 会社法の容認により、払込金額の2分の1までを資本金とせずに計上できる資本剰余金。その他資本剰余金から配当したときにも積み立てる。
- 利益準備金
- 繰越利益剰余金から配当したときに、会社法の規定により積み立てる利益剰余金。
- 株式申込証拠金
- 新株の申込期間中に払い込まれた金額をいったん受け入れる科目。払込期日に株式を割り当てた時点で資本金等へ振り替える。
- 別段預金
- 申込証拠金の入金を通常の預金と区別して管理する資産の勘定。払込期日後に当座預金などへ預け替える。
- 準備金の積立て
- 配当時に、配当額の10分の1と「資本金の4分の1から資本準備金・利益準備金の合計を差し引いた残り枠」のうち小さいほうを準備金として積み立てる。
- 計数変動
- 株主総会の決議により株主資本の内部で金額を振り替えること。資本準備金の資本金組入れなどで、会社の財産は増減しない。
- 株主資本等変動計算書
- 純資産の部の1年間の変動を当期首残高・当期変動額・当期末残高の形で示す財務諸表。当期純利益は繰越利益剰余金の増加として記載する。
