会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

会計の利益と税金の利益は違う? — 拓海、税効果会計に納得するまで

慎重に見積もった貸倒引当金が税務では認められないと知り憤る拓海。会計と税務それぞれの正義と、両者をつなぐ税効果会計を学ぶ物語。

11月、まず税金を「仮に」払う

株式会社アオバ商事の経理部に、税務署からの納付書が届いた。中間申告分の法人税等、450,000円。新卒1年目の拓海は首をかしげた。

「決算はまだ4か月も先ですよ。利益がいくらになるか分からないのに、もう税金を払うんですか」

「国は待ってくれないのよ」と経理課長の佐伯。「年度の途中で概算額をいったん納める。これが中間納付。まだ費用として確定したわけじゃないから、科目は資産の仮払法人税等。決算で年税額が確定したときに精算するの」

11月 中間納付。年税額確定までは資産として仮払い

借方(左)

仮払法人税等450,000

貸方(右)

当座預金450,000

決算日、拓海の電卓が狂う

3月31日、決算。アオバ商事の税引前当期純利益は3,000,000円で確定した。法定実効税率は30パーセント。拓海は意気揚々と電卓を叩いた。

「3,000,000円×30パーセントで、法人税等は900,000円ですね」

「残念、外れ」

顧問税理士との打ち合わせから戻った佐伯が、申告書の下書きを机に置いた。そこにはこうあった。税引前当期純利益3,000,000円、加算・貸倒引当金繰入限度超過額400,000円、課税所得3,400,000円

「課税所得……? 利益と違う数字に税率を掛けるんですか」

「そう。税金の計算は会計上の利益からスタートするけど、税務上、損金として認められない費用は利益に足し戻す。損金不算入という。今回のは、拓海くんも関わったあの件よ」

拓海には心当たりがあった。得意先の家具店ミナモ屋の経営が悪化し、売掛金の回収が危ぶまれたため、当期は貸倒引当金を個別評価で厚めに繰り入れたのだ。その繰入額のうち400,000円が、税務上の限度を超えているという。

「課税所得は3,400,000円。掛ける30パーセントで、法人税等は1,020,000円。中間で450,000円払っているから、残り570,000円が未払法人税等」

3月31日 年税額確定。仮払分を精算し残額を未払計上

借方(左)

法人税、住民税及び事業税1,020,000
合計1,020,000

貸方(右)

仮払法人税等450,000
未払法人税等570,000
合計1,020,000

「うちの慎重さが罰されるんですか」

仕訳を切りながら、拓海はだんだん腹が立ってきた。

「おかしくないですか。ミナモ屋さんの売掛金が危ないのは事実で、うちは会計のルールどおり慎重に見積もっただけです。なのに税務は費用と認めない。真面目に引当金を積んだ会社ほど税金が増えるなんて、慎重さが罰されてるみたいだ

「気持ちはわかるわ。でも税務には税務の正義があるの」

佐伯はホワイトボードに二本の線を引いた。

「会計の目的は、当期の利益をできるだけ実態どおりに測ること。だから見積りの費用も積極的に計上する。一方、税務の目的は課税の公平。見積りを自由に認めたら、利益を減らしたい会社はいくらでも費用を膨らませられる。だから画一的な限度を設けて、誰が計算しても同じ課税所得になるようにしている。どちらも間違っていない。目的が違うから、答えが違うだけ」

「理屈はわかりますけど……じゃあ、うちが多めに払ったこの分は、払い損ですか」

「いいえ。ここからが今日の本題。税効果会計よ」

多く払った税金は「前払い」だった

佐伯は申告書の加算欄を指した。

「この400,000円の超過額はね、ミナモ屋の売掛金が実際に貸し倒れたときに、税務上も損金として認められる。つまり将来、その分だけ課税所得が減って税金が安くなる。こういうズレを将来減算一時差異という。当期に多く払った税金は、取られっぱなしじゃなくて将来の税金の前払いなのよ」

「前払い……なら、資産ですか」

「その通り。差異400,000円×税率30パーセントで120,000円を繰延税金資産に計上する。相手科目は法人税等調整額。損益計算書では法人税等から差し引かれて、税金費用を会計の利益に見合う金額に調整してくれる」

将来減算一時差異400,000円×30% = 120,000円

借方(左)

繰延税金資産120,000

貸方(右)

法人税等調整額120,000

「法人税等1,020,000円から調整額120,000円を引くと900,000円。……あ。僕が最初に計算した、利益3,000,000円×30パーセントとぴったり同じ

「そういう仕組みなの。納税額そのものは税務のルールで決まるけど、損益計算書の税金費用は税効果会計が会計の利益に対応させてくれる。二つの正義の、橋渡し役ね」

翌期、ズレが解消する日

翌期、ミナモ屋は残念ながら事業を畳み、売掛金は貸倒れが確定した。税務上も損金と認められ、一時差異は解消。拓海は逆仕訳で繰延税金資産を取り崩した。

翌期 差異の解消。前払い分が実際の減税として戻る

借方(左)

法人税等調整額120,000

貸方(右)

繰延税金資産120,000

「前払いした税金が、ちゃんと戻ってきた……」

「会計と税務は、長い目で見れば帳尻が合う。ズレるのはタイミングだけ。それが『一時差異』という名前の意味よ」

この物語の学び

  • 法人税等は中間納付(仮払法人税等)→決算で年税額確定(差額を未払法人税等)→確定申告で納付の流れで処理する
  • 課税所得は税引前当期純利益+損金不算入額。会計は適正な期間損益、税務は課税の公平と、目的が違うから利益の額もズレる
  • 貸倒引当金の繰入限度超過額のような将来減算一時差異には、差異×法定実効税率の繰延税金資産を計上し、相手科目は法人税等調整額
  • 税効果会計は納税額を変えるのではなく、損益計算書の税金費用を会計上の利益に対応させる仕組み。差異が解消したら逆仕訳で取り崩す

物語で会計と税務の関係をつかんだら、教材で計算の流れを整理し、問題集で課税所得の算定と税効果の仕訳を練習してみましょう。