会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

レジ横の3色の伝票 — 歳末セールを乗り切る知恵

歳末セールで大忙しのハコニワ。仕訳帳が追いつかない! 入金伝票・出金伝票・振替伝票の3伝票制で修羅場を乗り切る物語。

仕訳帳が追いつかない

12月中旬。ハコニワ初の歳末セールは、予想をはるかに超える大盛況だった。

「美咲ちゃん、包装お願い!」「ラッピング3つ追加!」「配達の注文も入ったよ!」

閉店後、美咲はレジ横に積まれたメモの山を前に頭を抱えた。営業中は接客で手いっぱいで、仕訳帳を開く暇などない。走り書きのメモから夜に仕訳を起こすのだが、その日の記憶が曖昧で、時間もかかる。

「このままじゃ、年末まで体がもちません……。仕訳帳って、丁寧なのはいいんですけど、書くことが多すぎます」

翌朝、相談を受けた宇野先生は、カバンから3種類の紙の束を取り出した。

「いい機会だ。伝票を使おう。仕訳帳の代わりに、取引1件ごとに1枚の紙に記入する方式だ。1枚が小さいから、レジ横に置いてその場でさっと書ける。あとで日付順にまとめて集計すればいい」

3伝票制 — 書く量を減らす知恵

「3級で学ぶのは3伝票制。使う伝票は3種類だけだ」

宇野先生は3枚を並べた。入金伝票出金伝票振替伝票

「ポイントはね、入金伝票は現金が入ってきた取引専用、出金伝票は現金が出ていった取引専用ということ。だから——美咲さん、入金伝票の借方は、書かなくても何だと思う?」

「現金が入る専用なら……借方は必ず現金! あっ、だから書かなくていいんだ」

「その通り。入金伝票には相手の科目と金額だけ書けばいい。たとえば科目欄に『売上』、金額12,000円とだけ書いた入金伝票は、この仕訳を意味する」

入金伝票(科目: 売上 12,000)が表す仕訳

借方(左)

現金12,000

貸方(右)

売上12,000

「出金伝票はその逆で、貸方が必ず現金。科目欄に『仕入』、金額4,000円なら——」

出金伝票(科目: 仕入 4,000)が表す仕訳

借方(左)

仕入4,000

貸方(右)

現金4,000

「そして、現金が動かない取引——掛け売りや掛け仕入れなどは、ぜんぶ振替伝票。これは普通の仕訳と同じ形で、借方も貸方も書く」

振替伝票: カフェへの掛け売り20,000円

借方(左)

売掛金20,000

貸方(右)

売上20,000

「書く量が減るから速いし、仕訳帳は1冊しかないけれど、伝票なら分担して書ける。忙しい店のための知恵だよ」

さっそくその日から、レジ横に3種類の伝票が並んだ。レジを打つ美咲が入金伝票を、支払い係の遥さんが出金伝票を、配達の掛け取引はどちらかが振替伝票を書く。閉店後は伝票の束を集計して、まとめて総勘定元帳へ転記するだけ。夜の作業時間は、いつもの半分以下になった。

一部現金取引という難問

セール最終週。常連のお客さんが食器セット30,000円を購入し、「10,000円だけ現金で、残りは月末のお届けのときに」と言った。現金10,000円と、掛け20,000円。

「先生、これ……現金の取引と掛けの取引が混ざってます。入金伝票? 振替伝票?」

一部現金取引だね。書き方は2通りある」と宇野先生はメモ帳に図を描いた。

方法1: 取引を分解する

  • 現金部分→入金伝票(売上 10,000)
  • 掛け部分→振替伝票(売掛金 20,000/売上 20,000)
  • 取引を2つの取引とみなして素直に分ける

方法2: 全額を掛けとみなす

  • まず振替伝票(売掛金 30,000/売上 30,000)
  • 直後に入金伝票(科目: 売掛金 10,000)
  • 売上の総額30,000円が振替伝票に残る

「方法2は、いったん全額を掛け売りにして、すぐに売掛金のうち10,000円を現金で回収したと考えるんだ。このときの入金伝票の科目欄は、売上ではなく売掛金になる。試験でもよく問われるポイントだよ」

方法2の入金伝票(科目: 売掛金 10,000)が表す仕訳

借方(左)

現金10,000

貸方(右)

売掛金10,000

「どちらの方法でも、2枚あわせれば同じ結果……。伝票の科目欄を見れば、どっちの方法で起票したかが分かるんですね」

「そう。試験では『入金伝票にこう書いてあるとき、振替伝票に記入される仕訳はどれか』という形で出る。入金伝票の科目が売上なら分解する方法、売掛金なら全額を掛けとみなす方法。渡された伝票から逆算して、もう1枚を推理するんだ」

「伝票の探偵ごっこみたい。ちょっと面白いです」

3色の束が語る、師走の物語

大晦日。ハコニワのレジ横には、書き終えた伝票が3つの束になって積まれていた。赤い縁取りの入金伝票、青い縁取りの出金伝票、黒い振替伝票。

「この山、見て。ぜんぶ今月の取引」と美咲が束をめくる。「あとはこれを集計して総勘定元帳に転記すれば、仕訳帳と同じ役目を果たしてくれます」

「セールの間、一度も夜なべしなかったもんね」と遥さんが感心する。

「仕組みで解決するのが経理です!」

窓の外では商店街の福引きの鐘が鳴っている。3色の伝票の束は、ハコニワのいちばん忙しくて、いちばんにぎやかな師走の記録だった。

この物語の学び

  • 伝票は仕訳帳の代わりに取引1件ごとに起票する仕組み。3伝票制では入金伝票・出金伝票・振替伝票を使う
  • 入金伝票は借方が必ず現金、出金伝票は貸方が必ず現金なので、相手科目と金額だけを書く。現金が動かない取引は振替伝票
  • 一部現金取引の起票は2通り。取引を分解する方法と、いったん全額を掛けとみなす方法
  • 全額を掛けとみなす方法では、入金伝票の科目が「売上」ではなく**「売掛金」**になる点に注意

物語で流れをつかんだら、教材でルールを整理し、問題集で手を動かしてみましょう。