会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

修繕部門の300,000円を誰が払うか — 配賦方法をめぐる部門間バトル

補助部門のコスト負担をめぐって現場の班長たちが激突。直接配賦法と相互配賦法で答えが変わることを知った紗希が、配賦の公平とは何かを考える物語。

発端は一枚の部門別集計表

9月から、ミナト製作所は部門別原価計算を本格導入した。工場を切削部門・組立部門という2つの製造部門と、修繕部門・動力部門という2つの補助部門に分け、製造間接費をまず部門ごとに集計する。紗希が初めて作った9月の集計表は、こうなった。

  • 切削部門費 820,000円、組立部門費 580,000円(第1次集計)
  • 修繕部門費 300,000円、動力部門費 400,000円(第1次集計)

「補助部門は製品を直接作らないから、このままだと修繕や動力のコストが製品に届かない。だから補助部門費を製造部門に配り直す。これが第2次集計だ」と郡司さん。

部門別計算の手順: コストは部門を経由して製品へ
部門個別費と部門共通費を各部門へ(第1次集計)補助部門費を製造部門へ配賦(第2次集計)製造部門費を製品へ配賦

配賦基準になる9月の実績はこうだった。修繕部門の作業時間は、切削向け40時間・組立向け40時間・動力室向け20時間。動力部門の電力供給は、切削600kWh・組立200kWh・修繕室向け200kWh

問題は、この集計表を月次会議で見せた瞬間に起きた。

「うちの負担が重すぎる」

「おかしいだろう、これは!」

声を上げたのは組立の班長・戸田さんだった。紗希が最初に採用したのは直接配賦法。補助部門同士のやり取りは無視して、製造部門だけに配る方法だ。修繕部門費300,000円は切削と組立に40対40で150,000円ずつ。動力部門費400,000円は600対200で切削300,000円・組立100,000円。

直接配賦法による第2次集計: 切削+450,000円、組立+250,000円

借方(左)

切削部門費450,000
組立部門費250,000
合計700,000

貸方(右)

修繕部門費300,000
動力部門費400,000
合計700,000

「見ろ、修繕は動力室の設備も20時間直してるんだぞ。なのにその分まで、なんでうちと切削の折半なんだ。補助部門同士のやり取りを無視するなんて、どんぶり勘定じゃないか!」

切削の班長・堀内さんも応戦する。

「どんぶりで結構。細かくやり出したらキリがないだろう」

「経理さんよ、補助部門同士のやり取りもちゃんと計算する方法があるんだろう? それでやり直してくれ。正確にやれば、うちの負担は減るはずだ

紗希は頷いた。「あります。相互配賦法ですね。計算してみましょう」

相互配賦法、意外な結末

簿記2級で学ぶ相互配賦法は簡便法だ。1回目は補助部門同士のやり取りも含めて配賦し、2回目は補助部門に戻ってきた分を直接配賦法で製造部門に配る

相互配賦法(簡便法)の計算
  1. 1第1次配賦: 修繕300,000円を40対40対20で配る → 切削120,000・組立120,000・動力60,000
  2. 2第1次配賦: 動力400,000円を600対200対200で配る → 切削240,000・組立80,000・修繕80,000
  3. 3第2次配賦: 修繕に戻った80,000円を切削と組立へ40対40で → 各40,000
  4. 4第2次配賦: 動力に戻った60,000円を切削と組立へ600対200で → 切削45,000・組立15,000
相互配賦法による第2次集計: 切削+445,000円、組立+255,000円

借方(左)

切削部門費445,000
組立部門費255,000
合計700,000

貸方(右)

修繕部門費300,000
動力部門費400,000
合計700,000

会議室に集計結果が映し出された瞬間、戸田さんが固まった。

直接配賦法

  • 切削部門 450,000円
  • 組立部門 250,000円
  • 補助部門同士のやり取りは無視
  • 計算が簡単

相互配賦法(簡便法)

  • 切削部門 445,000円
  • 組立部門 255,000円
  • 補助部門同士のやり取りを反映
  • 実態に近いが計算は手間

「……うちの負担、増えてるじゃないか」

「はい。動力室に配られた修繕コストは、電力に姿を変えて、電力をたくさん使う切削部門に多く流れます。一方、修繕から動力へ行った分だけ、切削・組立へ折半される金額は減る。正確にやった結果、組立部門の負担は5,000円増えました」

堀内さんが吹き出し、戸田さんは頭を抱えた。

配賦は「損得」ではなく「実態」

騒ぎを収めたのは、意外にも大森工場長だった。

「戸田、お前の言い分は正しかったんだ。補助部門同士のやり取りを無視するのはどんぶりだ、というのはな。結果が自分に不利だったからといって、正しい理屈を引っ込めるな

「うっ……」

「広瀬、どっちの方法を使うんだ」

「相互配賦法を継続します。5,000円の差は小さく見えますが、部門別に集計する目的は、部門ごとの責任とコストをはっきりさせることです。方法をその都度、得なほうに変えたら、数字の信用がなくなります。それに——」

紗希は集計表の修繕部門の行を指した。

「そもそも修繕部門費300,000円自体が先月より膨らんでいます。配り方でもめるより、なぜ修繕がこんなに発生したのかを追うほうが、よほど原価が下がりますよ。老朽化した2号機の修繕だけで120,000円です」

工場長がにやりと笑った。

「2号機の更新の稟議、わしが書く。数字の裏付けはお前が付けろ」

配賦をめぐるバトルは、いつのまにか設備投資の相談に変わっていた。部門別に数字を分けたからこそ、見えてきた景色だった。

この物語の学び

  • 部門別計算は、第1次集計(部門個別費の賦課と部門共通費の配賦)→ 第2次集計(補助部門費の製造部門への配賦)→ 製品への配賦、と進む
  • 直接配賦法は補助部門同士のやり取りを無視して製造部門だけに配る簡便な方法。**相互配賦法(簡便法)**は1回目に補助部門同士も含めて配賦し、2回目は直接配賦法で締める
  • 同じデータでも配賦方法によって各部門の負担額は変わる。方法は損得でなく実態への近さで選び、継続して適用する
  • 部門別に集計する本当の目的は、配賦計算そのものではなくどの部門で・なぜコストが発生したかを管理できるようにすること

物語でバトルの顛末を見届けたら、教材で2つの配賦法の手順を整理し、問題集で配賦表の作成を練習しましょう。