会計マスター

労務費を完全マスターする — 消費賃金の計算と賃率差異を得点源に

簿記2級工業簿記労務費原価計算

労務費とは何か

労務費とは、製品を作るために消費した労働力の対価のことです。材料費が「モノ」の消費なら、労務費は「ヒト」の働きの消費です。工場で発生する人件費はすべて労務費として原価計算の対象になります。

材料費と同じく、労務費も次の2つに分かれます。

  • 直接労務費 … どの製品のためにかかったかが明らかなもの
  • 間接労務費 … 特定の製品と結びつけられないもの

労務費の分類

試験で問われる労務費の分類を表で整理します。

分類内容
賃金工員(現場で作業する人)に支払う給与
給料工場の事務職員や監督者に支払う給与
雑給パート・アルバイトに支払う給与
従業員賞与手当賞与や通勤手当・家族手当などの諸手当
退職給付費用退職金の当期負担分
法定福利費健康保険料・厚生年金保険料などの会社負担分

重要なのは、このうち直接労務費になり得るのは賃金だけで、給料・雑給・従業員賞与手当・退職給付費用・法定福利費はすべて間接労務費という点です。

直接工と間接工 — 直接労務費になる範囲

工員は次の2種類に分かれます。

  • 直接工 … 製品の加工作業(切削・組立など)を直接行う工員
  • 間接工 … 運搬・修繕・清掃など、製品加工以外の作業を行う工員

ここで最大のポイントです。直接労務費になるのは、直接工が直接作業を行った時間分の賃金だけです。

直接工の勤務時間は、次のように分解されます。

時間の種類内容分類
直接作業時間製品の加工を行っている時間直接労務費
間接作業時間運搬や清掃など加工以外の作業時間間接労務費
手待時間停電や材料待ちで作業できない時間間接労務費

手待時間は工員の責任ではなく発生する遊休時間なので原価に含めますが、特定の製品のための時間ではないため間接労務費です。間接工の賃金は、作業内容を問わずすべて間接労務費になります。

直接労務費

  • 直接工の直接作業時間分の賃金

間接労務費

  • 直接工の間接作業時間・手待時間分の賃金
  • 間接工の賃金
  • 給料・雑給・従業員賞与手当・退職給付費用・法定福利費

なお、直接工が残業した場合の割増賃金(定時間外作業手当の割増分)は、たまたまその時間に作業していた製品だけに負担させるのは不合理なので、原則として間接労務費として扱います。

消費賃金の計算 — 要支払額がカギ

給与の支払日と原価計算期間(月初から月末)はふつうズレています。たとえば「20日締め・25日払い」の会社では、当月25日に支払う賃金には前月21日から当月20日までの分が含まれており、当月21日から月末までの分は未払いです。

そこで、当月の消費賃金は要支払額で計算します。

当月消費賃金(要支払額)= 当月支払高 − 前月未払高 + 当月未払高

例: 当月支払高800,000円、前月未払高120,000円、当月未払高150,000円

  • 消費賃金 = 800,000円 − 120,000円 + 150,000円 = 830,000円

前月未払高は前月の原価なので差し引き、当月未払高は当月の原価なので加える、と考えれば式を丸暗記する必要はありません。

賃金

当月支払高800,000
当月未払高150,000
前月未払高120,000
当月消費額830,000

賃金を支払ったときと消費したときの仕訳は次のとおりです(預り金は省略)。

賃金の支払い

借方(左)

賃金800,000

貸方(右)

現金800,000
賃金の消費

借方(左)

仕掛品600,000
製造間接費230,000
合計830,000

貸方(右)

賃金830,000
合計830,000

直接作業時間分は仕掛品へ、間接作業時間・手待時間分は製造間接費へ振り替えます。

予定賃率と賃率差異

実際賃率は月末にならないと確定しないため、あらかじめ定めた予定賃率で消費賃金を計算する方法があります。

予定消費賃金 = 予定賃率 × 実際作業時間

例: 予定賃率1,200円、直接作業時間400時間、間接作業時間50時間

  • 仕掛品へ … 1,200円 × 400時間 = 480,000円
  • 製造間接費へ … 1,200円 × 50時間 = 60,000円

月末に実際消費賃金が判明したら、予定消費額との差額を賃率差異勘定に振り替えます。たとえば予定消費額540,000円に対して実際消費額が555,000円だった場合は、差額15,000円が賃率差異です。

賃率差異への振り替え(借方差異)

借方(左)

賃率差異15,000

貸方(右)

賃金15,000

***実際が予定を上回れば借方差異(不利差異)、下回れば貸方差異(有利差異)***です。材料消費価格差異とまったく同じ考え方なので、セットで覚えると効率的です。

まとめ

  • 労務費は賃金・給料・雑給・従業員賞与手当・退職給付費用・法定福利費に分類される
  • 直接労務費は直接工の直接作業時間分の賃金のみで、間接作業時間・手待時間は間接労務費
  • 消費賃金は要支払額(当月支払高−前月未払高+当月未払高)で計算する
  • 予定賃率を使う場合、実際との差額は賃率差異(実際が多ければ借方差異)

要支払額の計算と賃率差異は、本試験の第4問で繰り返し出題される定番論点です。下の問題集で計算パターンを体に染み込ませましょう。

📚 試験で覚えるべき用語

労務費
製品を作るために消費した労働力の対価。賃金・給料・雑給・従業員賞与手当・退職給付費用・法定福利費に分類される。
直接工
切削や組立など製品の加工作業を直接行う工員。その直接作業時間分の賃金だけが直接労務費になる。
手待時間
停電や材料待ちなど工員の責任によらず作業できない遊休時間。この時間分の賃金は間接労務費として処理する。
要支払額
当月の消費賃金を発生ベースで計算した金額。当月支払高−前月未払高+当月未払高で求める。
予定賃率
あらかじめ定めておく1時間あたりの賃率。予定賃率×実際作業時間で消費賃金を計算し、月末を待たずに原価計算できる。
賃率差異
予定賃率による消費賃金と実際消費賃金の差額を集計する勘定。実際が予定を上回れば借方差異(不利差異)、下回れば貸方差異(有利差異)。
法定福利費
健康保険料・厚生年金保険料など社会保険料の会社負担分。労務費の一種で、間接労務費として処理する。