個別原価計算のしくみ — 製造指図書・原価計算表から仕損の処理まで
顧客の注文に応じて1つずつ異なる製品を作る受注生産では、製品ごとに原価を集計する必要があります。これが「個別原価計算」です。簿記2級では原価計算表の作成と勘定への振り替え、そして仕損の処理までが出題範囲です。順番に見ていきましょう。
個別原価計算とは
個別原価計算とは、製造指図書ごとに原価を集計する方法で、船舶や特注機械のような受注生産に適用されます。注文ごとに製品の仕様や大きさが異なるため、「この注文にいくらかかったのか」を1件ずつ把握する必要があるからです。同じ規格の製品を大量に見込生産する場合の総合原価計算と対をなす計算方法です。
| 計算方法 | 適する生産形態 | 原価の集計単位 |
|---|---|---|
| 個別原価計算 | 受注生産(造船・特注機械など) | 製造指図書ごと |
| 総合原価計算 | 大量見込生産(食品・化学など) | 期間(1か月)ごと |
製造指図書と原価計算表
受注すると、製造現場への作業命令書である製造指図書が発行されます。指図書には番号(No.101 など)が付けられ、材料の出庫票や作業時間の記録にもこの番号が記入されます。番号をたどることで「どの原価がどの注文のために発生したか」を集計できるしくみです。そして指図書番号ごとに原価を集計する一覧表が原価計算表です。原価計算表の縦には直接材料費・直接労務費・製造間接費などの費目、横には指図書番号が並びます。
原価計算表の集計ルールは次の2つだけです。
- 製造直接費(直接材料費・直接労務費など) … どの指図書のために発生したか明らかなので、各指図書に**賦課(直課)**する
- 製造間接費 … 直接作業時間などの配賦基準を使って各指図書に配賦する
【例】指図書No.101 直接材料費 200,000円、直接労務費 150,000円(直接作業時間 300時間)、製造間接費は直接作業時間あたり400円で予定配賦
| 費目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 賦課 | 200,000円 |
| 直接労務費 | 賦課 | 150,000円 |
| 製造間接費 | 400円 × 300時間 | 120,000円 |
| 合計 | 470,000円 |
直接費は賦課、間接費は配賦。この区別が個別原価計算の背骨です。
完成・未完成・引渡済の区別
月末には、指図書ごとの状態によって原価の行き先が変わります。原価計算表の備考欄に「完成・引渡済」「完成・未引渡」「未完成」と書かれていたら、それぞれ次のように勘定へ振り分けます。ここが第4問で最も問われるポイントです。
| 月末の状態 | 原価の行き先 | 勘定科目 |
|---|---|---|
| 完成し、顧客へ引渡済 | 売上原価 | 売上原価 |
| 完成したが、未引渡 | 完成品在庫 | 製品 |
| 未完成 | 月末仕掛品 | 仕掛品(次月繰越) |
【例】No.301(原価350,000円)とNo.302(原価420,000円)は完成、No.303(原価280,000円)は月末現在未完成である場合、当月の完成品原価は350,000円 + 420,000円 = 770,000円です。完成時には仕掛品勘定から製品勘定へ振り替えます。
借方(左)
貸方(右)
このうちNo.301だけを顧客に引き渡したときは、次の仕訳を行います。
借方(左)
貸方(右)
未完成の指図書の原価は仕掛品勘定に残ったまま次月に繰り越されます。「完成分だけ製品へ、引渡分だけ売上原価へ」という流れを必ず押さえましょう。
仕損の処理
作業に失敗して不合格品が生じることを仕損(しそんじ)といい、その処理にかかる費用を仕損費といいます。簿記2級では、補修できるかどうかで処理が分かれます。
補修可能な場合
補修によって合格品にできる場合は、補修指図書を発行し、補修にかかった材料費や労務費などの原価を補修指図書に集計します。
- 補修指図書に集計された原価 = 仕損費
- 仕損費は、元の製造指図書に賦課する
【例】No.401の製品に仕損が生じ、補修指図書No.401-1を発行して補修した。補修にかかった原価は30,000円である。この30,000円が仕損費となり、No.401の原価に加算されます。原価計算表では、補修指図書の列に集計した原価を仕損費の行で元の指図書の列へ振り替える形で表示されます。
補修できない場合
補修が不可能で代品を製造する場合は、新しい製造指図書を発行します。このとき旧指図書に集計された原価から、仕損品に売却価値などがあればその仕損品評価額を差し引いた残額が仕損費になります。
仕損費 = 旧指図書の集計原価 − 仕損品評価額
いずれの場合も、正常な仕損の仕損費は当該指図書の製造原価に含めるのが基本処理です。
補修可能な仕損
- •補修指図書を発行して補修の原価を集計
- •補修指図書に集計された原価=仕損費
- •仕損費は元の製造指図書に賦課
補修できない仕損
- •新しい製造指図書を発行して代品を製造
- •仕損費=旧指図書の集計原価−仕損品評価額
まとめ
- 個別原価計算は受注生産に適用し、製造指図書ごとに原価計算表で原価を集計する
- 直接費は各指図書に賦課、製造間接費は配賦基準で配賦する
- 完成・引渡済は売上原価、完成・未引渡は製品、未完成は仕掛品として処理する
- 補修可能な仕損は補修指図書に集計した原価が仕損費となり、元の指図書に賦課する
- 補修不能な仕損は、旧指図書の原価から仕損品評価額を控除した額が仕損費になる
原価計算表の集計から勘定の流れ、仕損の処理まで、一連のストーリーとして理解できれば得点は安定します。下の問題集で確認しましょう。
📚 試験で覚えるべき用語
- 個別原価計算
- 受注生産に適用し、製造指図書ごとに原価を集計する原価計算の方法。造船や特注機械の製造が典型例。
- 製造指図書
- 受注のつど発行される製造現場への作業命令書。指図書番号ごとに原価を集計する単位となる。
- 原価計算表
- 製造指図書番号ごとに直接材料費・直接労務費・製造間接費などを集計する一覧表。個別原価計算の中心となる帳票。
- 賦課(直課)
- どの指図書のために発生したか明らかな製造直接費を、その指図書に直接集計すること。
- 配賦
- 特定の指図書に直接跡づけられない製造間接費を、直接作業時間などの配賦基準を使って各指図書に割り当てること。
- 仕損費
- 作業に失敗して不合格品(仕損)が生じたときの処理にかかる費用。正常な仕損の仕損費は当該指図書の製造原価に含める。
- 補修指図書
- 補修可能な仕損が生じたときに発行する指図書。ここに集計された原価が仕損費となり、元の製造指図書に賦課される。
- 仕損品評価額
- 補修できない仕損品の売却価値など。仕損費は旧指図書の集計原価からこの評価額を差し引いて求める。
