標準原価計算の差異分析を完全攻略 — 価格差異から操業度差異まで
標準原価計算は、簿記2級・工業簿記の中でも配点の大きい頻出論点です。差異の種類が多くて混乱しがちですが、すべての差異は「標準−実際」で計算するという一本の軸を押さえれば、一気に整理できます。この記事では例題を通して、差異分析の全体像と勘定記入までを解説します。
標準原価計算とは
標準原価計算は、科学的・統計的な調査に基づいてあらかじめ目標となる原価(標準原価)を設定し、実際原価との差額(原価差異)を分析することで原価管理に役立てる方法です。実際原価計算では原価のムダがどこにあるか見えませんが、標準と比較すれば「どこで・いくら・なぜ」ズレたのかが明らかになります。
標準原価カード
標準原価は、製品1個あたりの原価標準として標準原価カードにまとめられます。以下の例題で使うカードはこちらです。
| 費目 | 標準単価・賃率・配賦率 | 標準消費量・時間 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 直接材料費 | 100円/kg | 5kg | 500円 |
| 直接労務費 | 1,200円/時間 | 2時間 | 2,400円 |
| 製造間接費 | 1,000円/時間 | 2時間 | 2,000円 |
| 合計 | 4,900円 |
当月の実績データは次のとおりとします(月初・月末仕掛品はなし)。
- 実際生産量 … 100個
- 実際直接材料費 … 実際消費量520kg、実際価格102円/kg(53,040円)
- 実際直接労務費 … 実際作業時間210時間、実際賃率1,190円/時間(249,900円)
- 実際製造間接費 … 218,000円
- 製造間接費予算(公式法変動予算)… 基準操業度220時間、変動費率500円/時間、月間固定費110,000円
差異の符号は、**標準−実際がマイナスなら不利差異(借方差異)、プラスなら有利差異(貸方差異)**と判定します。
直接材料費差異 — 価格差異と数量差異
まず実際生産量に対する標準消費量を求めます。
- 標準消費量 = 100個 × 5kg = 500kg
差異は次の2つに分解します。
- 価格差異 =(標準価格 − 実際価格)× 実際消費量 =(100円 − 102円)× 520kg = 1,040円の不利差異
- 数量差異 = 標準価格 ×(標準消費量 − 実際消費量)= 100円 ×(500kg − 520kg)= 2,000円の不利差異
合計3,040円の不利差異は、標準直接材料費50,000円と実際発生額53,040円の差額と一致します。重要なのは掛け合わせる相手で、価格差異には実際消費量を、数量差異には標準価格を掛けると覚えてください。市価の変動など管理しにくい影響を価格差異に寄せ、数量差異を純粋な消費効率の指標にするための約束事です。
- 1実際生産量から標準消費量・標準時間を求める
- 2価格差異=(標準価格−実際価格)×実際消費量 を計算する
- 3数量差異=標準価格×(標準消費量−実際消費量)を計算する
- 4総差異と内訳の合計が一致するか検算する
直接労務費差異 — 賃率差異と時間差異
考え方は材料費とまったく同じで、価格を賃率に、数量を時間に置き換えるだけです。
- 標準直接作業時間 = 100個 × 2時間 = 200時間
- 賃率差異 =(標準賃率 − 実際賃率)× 実際作業時間 =(1,200円 − 1,190円)× 210時間 = 2,100円の有利差異
- 時間差異 = 標準賃率 ×(標準時間 − 実際時間)= 1,200円 ×(200時間 − 210時間)= 12,000円の不利差異
賃率は標準より安く済んだので有利差異、作業時間は標準より多くかかったので不利差異です。合計すると9,900円の不利差異となり、標準直接労務費240,000円と実際発生額249,900円の差額に一致します。分析のたびに総差異と内訳の合計が一致するか検算する習慣をつけると、ケアレスミスを大幅に減らせます。
直接材料費差異
- •価格差異=(標準価格−実際価格)×実際消費量
- •数量差異=標準価格×(標準消費量−実際消費量)
直接労務費差異
- •賃率差異=(標準賃率−実際賃率)×実際作業時間
- •時間差異=標準賃率×(標準時間−実際時間)
製造間接費差異 — 予算差異・能率差異・操業度差異
製造間接費は公式法変動予算を前提に、三分法で分析します。標準配賦率は変動費率500円+固定費率500円(110,000円 ÷ 220時間)= 1,000円/時間です。
| 差異 | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| 予算差異 | 実際操業度の予算許容額(500円×210時間+110,000円=215,000円)− 実際発生額218,000円 | 3,000円の不利差異 |
| 能率差異 | 標準配賦率1,000円 ×(標準操業度200時間 − 実際操業度210時間) | 10,000円の不利差異 |
| 操業度差異 | 固定費率500円 ×(実際操業度210時間 − 基準操業度220時間) | 5,000円の不利差異 |
検算として、総差異 = 標準配賦額200,000円(1,000円×200時間)− 実際発生額218,000円 = 18,000円の不利差異となり、3つの差異の合計と一致します。重要なポイントとして、予算差異は「使いすぎ」、能率差異は「働きのムダ」、操業度差異は「設備の遊び」を表すとイメージすると忘れません。
パーシャル・プランとシングル・プラン
差異を勘定のどこで把握するかによって、記帳方法は2つに分かれます。
- パーシャル・プラン … 仕掛品勘定の借方に実際原価で記入する。原価差異は仕掛品勘定の中で把握される
- シングル・プラン … 仕掛品勘定の借方に標準原価で記入する。原価差異は材料・賃金など各費目の勘定で把握される
パーシャル・プランでは差異は仕掛品勘定から、シングル・プランでは各費目勘定から振り替えられる。勘定記入の問題では、仕掛品勘定の借方が実際か標準かを最初に確認しましょう。
パーシャル・プラン
- •仕掛品勘定の借方に実際原価で記入
- •原価差異は仕掛品勘定で把握
シングル・プラン
- •仕掛品勘定の借方に標準原価で記入
- •原価差異は材料・賃金など各費目の勘定で把握
パーシャル・プランで材料費の差異を仕掛品勘定から差異勘定へ振り替える仕訳は次のとおりです(どちらも不利差異のため借方に計上します)。
借方(左)
貸方(右)
まとめ
- 標準原価計算は標準原価と実際原価の差異を分析して原価管理に役立てる方法である
- 差異はすべて「標準−実際」で計算し、マイナスなら不利差異(借方差異)となる
- 直接材料費は価格差異と数量差異、直接労務費は賃率差異と時間差異に分解する
- 製造間接費は予算差異・能率差異・操業度差異の三分法で分析する
- パーシャル・プランは仕掛品勘定に実際原価、シングル・プランは標準原価で記入する
差異分析は計算パターンの反復で必ず得点できるようになります。下の問題集で、それぞれの差異を自分の手で計算してみましょう。
📚 試験で覚えるべき用語
- 標準原価計算
- あらかじめ目標となる標準原価を設定し、実際原価との差額(原価差異)を分析して原価管理に役立てる方法。
- 価格差異
- 材料の標準価格と実際価格のずれによる差異。(標準価格−実際価格)×実際消費量で計算する。
- 数量差異
- 材料の消費効率のずれによる差異。標準価格×(標準消費量−実際消費量)で計算する。
- 賃率差異
- 標準賃率と実際賃率のずれによる直接労務費の差異。(標準賃率−実際賃率)×実際作業時間で計算する。
- 時間差異
- 作業能率のずれによる直接労務費の差異。標準賃率×(標準時間−実際時間)で計算する。
- 予算差異
- 製造間接費の使いすぎを表す差異。実際操業度における予算許容額から実際発生額を差し引いて求める。
- 操業度差異
- 設備の利用度のずれを表す差異。固定費率×(実際操業度−基準操業度)で計算する。
- パーシャル・プラン
- 仕掛品勘定の借方に実際原価で記入し、原価差異を仕掛品勘定で把握する記帳方法。標準原価で記入するシングル・プランと対をなす。
