引当金の応用 — 貸倒引当金の個別評価から退職給付引当金まで
引当金とは — 2級で広がる引当金の世界
簿記3級では貸倒引当金だけを学びましたが、2級では賞与引当金・修繕引当金・商品保証引当金・退職給付引当金など、多くの引当金が登場します。引当金とは、将来の費用や損失に備えて、当期の負担に属する金額をあらかじめ費用計上したときの貸方項目です。
引当金を設定するのは、次の4つの要件を満たす場合です。
- 将来の特定の費用または損失であること
- その発生が当期以前の事象に起因すること
- 発生の可能性が高いこと
- 金額を合理的に見積もることができること
引当金は「当期の原因で生じる将来の支出を、当期の費用として先取りする」仕組みだと理解しておくと、どの引当金にも応用が利きます。
貸倒引当金の応用
個別評価と一括評価
2級では、債権を回収可能性に応じて区分して見積もります。
- 個別評価 … 経営状態が悪化した特定の得意先に対する債権について、個別に貸倒れの可能性を見積もる
- 一括評価 … それ以外の債権について、貸倒実績率などを使ってまとめて見積もる
例1: 個別評価と一括評価の併用
決算につき、売掛金1,200,000円のうちA社に対する200,000円については50%、その他の売掛金については2%の貸倒引当金を差額補充法により設定する。貸倒引当金の決算整理前残高は30,000円である。
- 個別評価分: 200,000円 × 50% = 100,000円
- 一括評価分: (1,200,000円 − 200,000円)× 2% = 20,000円
- 繰入額: 100,000円 + 20,000円 − 30,000円 = 90,000円
借方(左)
貸方(右)
個別評価の対象になった債権を、一括評価の計算からは除くことを忘れないでください。二重に見積もってしまう誤りが頻出です。
営業債権と営業外債権で表示区分が異なる
貸倒引当金繰入は、対象が営業債権か営業外債権かで損益計算書の表示区分が変わります。
| 対象債権 | 例 | 繰入額の表示区分 |
|---|---|---|
| 営業債権 | 売掛金、受取手形、電子記録債権 | 販売費及び一般管理費 |
| 営業外債権 | 貸付金、営業外受取手形 | 営業外費用 |
仕訳で使う科目はどちらも貸倒引当金繰入ですが、財務諸表作成問題では表示区分の違いが問われます。売掛金は本業の債権、貸付金は本業以外の債権、と整理しておきましょう。
賞与引当金
翌期に支給する従業員賞与のうち、当期の労働に対応する部分を賞与引当金繰入として費用計上します。
例2: 賞与引当金の計上
×2年6月に支給予定の賞与1,200,000円(支給対象期間は×1年12月から×2年5月)について、決算(×2年3月31日)にあたり当期負担分を賞与引当金として計上する。
1,200,000円 × 6分の4(12月から3月までの4か月)= 800,000円
借方(左)
貸方(右)
翌期に賞与を支給したときは、引当金を取り崩し、翌期負担分は賞与(費用)として処理します。支給対象期間のうち当期に属する月数を数えるのが計算のポイントです。
修繕引当金
建物や機械の定期修繕に備える引当金です。決算時に修繕引当金繰入を計上し、実際に修繕したときはまず修繕引当金を取り崩し、超過額だけを修繕費とします。
例3: 修繕を実施した
建物の定期修繕を行い、代金350,000円を小切手を振り出して支払った。修繕引当金の残高が300,000円ある。
借方(左)
貸方(右)
なお、修繕とあわせて建物の価値を高める改良工事(資本的支出)を行った場合、その部分は修繕費ではなく建物などの資産に計上します。
商品保証引当金
「販売後1年間は無料で修理します」といった保証を付けて商品を販売した場合、将来の保証費用の見積額を商品保証引当金繰入として計上します。翌期に実際に無料修理を行ったときは、商品保証引当金を取り崩します。売上高に保証費用の実績率を掛けて見積もるのが典型パターンです。
退職給付引当金
従業員の退職金の支払いに備える引当金です。2級では、数理計算を伴わない簡便的な処理だけが出題されます。決算時に当期の負担に属する金額を見積もって繰り入れます。
借方(左)
貸方(右)
従業員が退職して退職一時金を支払ったときは、引当金を取り崩します。
借方(左)
貸方(右)
繰入時の費用科目は「退職給付費用」であり、「退職給付引当金繰入」ではありません。他の引当金と名前のパターンが違うため、ひっかけとしてよく出題されます。
まとめ
- 貸倒引当金は個別評価と一括評価を併用し、差額補充法で繰り入れる
- 繰入額の表示区分は、営業債権なら販売費及び一般管理費、営業外債権なら営業外費用
- 賞与引当金は翌期支給額のうち当期負担分を月割で計上する
- 修繕引当金・商品保証引当金は、取崩し時にまず引当金を充当する
- 退職給付引当金の繰入は退職給付費用という科目を使う
引当金は種類が多く見えますが、「決算で繰入・実際の支出で取崩し」という流れはすべて共通です。下の問題集で、見積計算と取崩しの仕訳を確実にマスターしましょう。
📚 試験で覚えるべき用語
- 引当金
- 将来の費用・損失に備えて、当期の負担に属する金額をあらかじめ費用計上したときの貸方項目。発生可能性が高いことなど4つの設定要件がある。
- 個別評価
- 経営状態が悪化した特定の得意先に対する債権について、個別に貸倒れの可能性を見積もる方法。対象債権は一括評価の計算から除く。
- 一括評価
- 個別評価の対象以外の債権について、貸倒実績率などを用いてまとめて貸倒引当金を見積もる方法。
- 貸倒引当金繰入の表示区分
- 営業債権(売掛金・受取手形など)に対する繰入額は販売費及び一般管理費、営業外債権(貸付金など)に対する繰入額は営業外費用に表示する。
- 賞与引当金
- 翌期支給予定の従業員賞与のうち、当期の労働に対応する部分を月割で費用計上したときの引当金。
- 修繕引当金
- 建物や機械の定期修繕に備える引当金。実際に修繕したときはまず引当金を取り崩し、超過額だけを修繕費とする。
- 商品保証引当金
- 無料保証を付けて販売した商品について、将来の保証費用の見積額を計上する引当金。売上高に実績率を掛けて見積もるのが典型。
- 退職給付引当金
- 従業員の退職金の支払いに備える引当金。繰入時の費用科目は「退職給付引当金繰入」ではなく退職給付費用を使う。
