直接原価計算とCVP分析を完全攻略 — 損益分岐点はこう求める
工業簿記の総仕上げともいえるのが直接原価計算とCVP分析です。本試験では第5問を中心に頻出し、計算パターンさえ身につければ安定して得点できる分野です。この記事では、費用の分解から損益分岐点の計算、固定費調整まで順番に解説します。
直接原価計算とは
直接原価計算とは、原価を変動費と固定費に分け、変動製造原価だけを製品原価として集計する方法です。固定製造原価は製品原価に含めず、発生した期間の費用(期間原価)としてまとめて処理します。
- 変動費 … 操業度に比例して増減する原価(直接材料費、変動加工費など)
- 固定費 … 操業度が変わっても一定額発生する原価(減価償却費、固定給の賃金など)
これに対して、これまで学んできた「固定製造原価も製品原価に含める方法」を全部原価計算と呼びます。直接原価計算は利益計画に役立つ内部管理用の計算であり、外部公表用の財務諸表には認められていない点も押さえておきましょう。
全部原価計算
- •固定製造原価も製品原価に含める
- •外部公表用の財務諸表で使う
直接原価計算
- •変動製造原価だけを製品原価に集計
- •固定製造原価は期間原価として全額費用処理
- •利益計画に役立つ内部管理用
変動費と固定費の分解 — 高低点法
原価を変動費と固定費に分ける代表的な方法が高低点法です。過去の実績データのうち、正常な範囲内で操業度が最高の点と最低の点の2つだけを使い、原価を直線とみなして分解します。
例として、製造間接費の実績が次のとおりだったとします。
| 月 | 操業度(機械稼働時間) | 製造間接費 |
|---|---|---|
| 最高の月 | 4,000時間 | 660,000円 |
| 最低の月 | 2,500時間 | 510,000円 |
計算手順は次の2ステップです。
- 変動費率 =(660,000円 − 510,000円)÷(4,000時間 − 2,500時間)= 150,000円 ÷ 1,500時間 = 1時間あたり100円
- 固定費 = 660,000円 − 100円 × 4,000時間 = 260,000円
固定費は最低の月で計算しても 510,000円 − 100円 × 2,500時間 = 260,000円となり一致します。どちらの点で計算しても同じ金額になるので、検算に活用しましょう。
直接原価計算の損益計算書
直接原価計算の損益計算書では、売上高からまず変動費を差し引いて貢献利益を求め、そこから固定費を差し引いて営業利益を計算します。
| 直接原価計算の損益計算書 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 800,000円 |
| 変動費(変動売上原価・変動販売費) | 480,000円 |
| 貢献利益 | 320,000円 |
| 固定費(固定製造原価・固定販売費及び一般管理費) | 240,000円 |
| 営業利益 | 80,000円 |
貢献利益は「固定費を回収し、利益を生み出す源泉」です。そして、貢献利益を売上高で割った貢献利益率(この例では 320,000円 ÷ 800,000円 = 40%)が、次のCVP分析で主役になります。
全部原価計算との利益の違いと固定費調整
全部原価計算では固定製造原価が製品原価に含まれるため、期末に在庫(仕掛品・製品)が残ると、在庫の中の固定製造原価は当期の費用にならず翌期に繰り越されます。一方、直接原価計算では固定製造原価を全額当期の費用にするため、在庫が増減すると両者の営業利益に差が生じます。
この差を調整する手続きが固定費調整で、公式は次のとおりです。
- 全部原価計算の営業利益 = 直接原価計算の営業利益 + 期末在庫に含まれる固定製造原価 − 期首在庫に含まれる固定製造原価
例えば、直接原価計算の営業利益が 80,000円、期末の仕掛品・製品に含まれる固定製造原価が 30,000円、期首分が 10,000円なら、全部原価計算の営業利益は 80,000円 + 30,000円 − 10,000円 = 100,000円になります。在庫が増えた期は全部原価計算のほうが利益が大きく出る、という関係も覚えておくと選択肢を素早く絞れます。
CVP分析 — 損益分岐点を求める
CVP分析は、原価・操業度・利益の関係を分析する手法です。3つの公式を使い分けます。
- 1原価を変動費と固定費に分解する(高低点法など)
- 2貢献利益率=貢献利益÷売上高 を求める
- 3損益分岐点売上高=固定費÷貢献利益率 で計算する
- 4目標利益があるときは固定費に目標営業利益を上乗せして同じ式で計算する
損益分岐点売上高
損益分岐点は営業利益がちょうどゼロになる点、つまり貢献利益と固定費が等しくなる売上高です。
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 貢献利益率
先ほどの例(固定費 240,000円、貢献利益率 40%)では、240,000円 ÷ 0.4 = 600,000円です。販売単価が 800円なら、600,000円 ÷ 800円 = 750個が損益分岐点販売量になります。
目標利益を達成する売上高
目標営業利益を達成する売上高は、固定費に目標利益を上乗せして同じ形の式で求めます。
- 目標売上高 =(固定費 + 目標営業利益)÷ 貢献利益率
目標利益が 120,000円なら、(240,000円 + 120,000円)÷ 0.4 = 900,000円です。
安全余裕率
安全余裕率は、実際の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているかを示す割合です。
- 安全余裕率 =(売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 売上高 × 100
売上高 800,000円、損益分岐点売上高 600,000円なら、(800,000円 − 600,000円)÷ 800,000円 × 100 = **25%**です。この割合が大きいほど、売上が減っても赤字に転落しにくい安全な状態といえます。
まとめ
- 直接原価計算は変動製造原価だけを製品原価とし、固定費は期間原価として全額費用にする
- 貢献利益 = 売上高 − 変動費。貢献利益率がCVP分析のすべての式の分母になる
- 高低点法は最高・最低の2点から変動費率と固定費を求め、どちらの点でも固定費が一致することで検算できる
- 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 貢献利益率、目標売上高は固定費に目標利益を足して同じ式で計算する
- 全部原価計算との利益の差は、在庫中の固定製造原価による固定費調整で説明できる
公式はすべて「固定費 ÷ 貢献利益率」を軸につながっています。下の問題集で計算パターンを繰り返し、手が自然に動くまで練習しましょう。
📚 試験で覚えるべき用語
- 直接原価計算
- 原価を変動費と固定費に分け、変動製造原価だけを製品原価とする方法。固定製造原価は期間原価として全額費用処理する。
- 全部原価計算
- 固定製造原価も含めたすべての製造原価を製品原価に集計する方法。外部公表用の財務諸表で用いられる。
- 貢献利益
- 売上高から変動費を差し引いた金額。固定費を回収し、利益を生み出す源泉となる。
- 貢献利益率
- 貢献利益を売上高で割った割合。損益分岐点売上高などCVP分析の公式の分母になる。
- 損益分岐点売上高
- 営業利益がちょうどゼロになる売上高。固定費を貢献利益率で割って求める。
- 高低点法
- 正常な範囲内で操業度が最高の点と最低の点の2つを使い、原価を変動費と固定費に分解する方法。
- 安全余裕率
- 実際の売上高が損益分岐点売上高をどれだけ上回っているかを示す割合。(売上高−損益分岐点売上高)÷売上高で計算する。
- 固定費調整
- 直接原価計算の営業利益に期末在庫中の固定製造原価を加え、期首在庫分を差し引いて全部原価計算の営業利益に修正する手続き。
