会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

初めての決算・後編 — 1年が数字になる日

決算整理を終えた帳簿から、損益計算書と貸借対照表が姿を現す。クッキー缶から始まった1年が2枚の書類になる、感動の決算後編。

決算の夜、最終章

決算整理を終えた深夜のハコニワ。しーくりくりしーも、貯蔵品も、現金過不足の精算も片づいた。テーブルの上には修正済みの元帳が積まれている。

「さて、いよいよ仕上げだ」と宇野先生が言った。「ここから2枚の書類を作る。損益計算書貸借対照表。あわせて財務諸表という。1年間のハコニワのすべてが、この2枚に凝縮される」

「2枚だけ、ですか。この分厚い帳簿が」

「2枚だけだからいいんだ。銀行も、株主のおばあちゃんも、この2枚を見ればハコニワの1年が分かる。そのために世界共通の型が決まっているんだよ」

収益と費用を「損益」に集める

「まず、収益と費用の勘定をぜんぶ、損益という決算専用の勘定に集める。損益振替というよ。収益からいこう。当期の売上は?」

「決算整理のあとで、8,600,000円です」

「売上勘定は貸方残高だから、借方に書いて残高をゼロにし、損益勘定の貸方へ移す」

3月31日 収益の損益勘定への振替え

借方(左)

売上8,600,000

貸方(右)

損益8,600,000

「次は費用。仕入——いまや売上原価を表す6,050,000円。給料1,320,000円、支払家賃720,000円、水道光熱費40,000円。まとめて損益勘定の借方へ」

3月31日 費用の損益勘定への振替え

借方(左)

損益8,130,000
合計8,130,000

貸方(右)

仕入6,050,000
給料1,320,000
支払家賃720,000
水道光熱費40,000
合計8,130,000

美咲は損益勘定を見つめた。貸方に収益8,600,000円。借方に費用8,130,000円。差額は——470,000円。

「これって……」

「そう。当期純利益。ハコニワが1年間で稼いだ、正真正銘のもうけだ」

損益

費用合計8,130,000
当期純利益470,000
収益合計8,600,000

「損益っていう勘定、初めて使いました」

「決算のときだけ登場する特別な勘定だからね。1年間ばらばらの勘定に散らばっていた収益と費用を、1か所に集めて差し引きする——もうけの計算をするためだけの集計場所なんだ」

「この利益は、会社の元手を増やす。だから最後に、純資産の繰越利益剰余金へ振り替える。こうして収益・費用の勘定はすべて残高ゼロになり、まっさらな状態で新しい年度を迎えるんだ」

3月31日 当期純利益を繰越利益剰余金へ振替え

借方(左)

損益470,000

貸方(右)

繰越利益剰余金470,000

2枚の書類が姿を現す

朝方近く。美咲は宇野先生に教わりながら、清書を進めた。

損益勘定の中身を並べ替えれば損益計算書になる。表示のルールがあって、売上は売上高、仕入は売上原価という名前に変わる。いちばん下には当期純利益470,000円。

資産・負債・純資産の勘定残高を並べれば貸借対照表になる。現金、普通預金、売掛金、繰越商品は商品という表示名で、貯蔵品、前払保険料、備品……。右側には買掛金、未払法人税等、資本金、そして繰越利益剰余金。

「あっ」と美咲が声を上げた。「貸借対照表の繰越利益剰余金の中に、さっきの当期純利益470,000円が入ってる。2枚の書類が、利益でつながってるんですね」

「それに気づけたなら、今夜は満点だ」

損益計算書(P/L)

  • 1年間の経営成績を表す
  • 収益と費用、その差の当期純利益
  • 1年間の「動き」を映すフィルム

貸借対照表(B/S)

  • 期末時点の財政状態を表す
  • 資産と負債・純資産、左右の合計は一致
  • 期末の「瞬間」を写す写真

数字の向こうに見えるもの

窓の外が白み始めたころ、2枚の書類が完成した。遥さんが淹れたてのコーヒーを運んでくる。

「見せて見せて。……へえ、うちの店、470,000円ももうかったんだ」

「遥さん、他人事みたいに言わないでください。ほら、ここ見てください。売上高860万円から売上原価605万円を引いた255万円が、商品を売って稼いだもうけ。そこからお給料と家賃と光熱費を引いて、残ったのが47万円です」

「美咲ちゃんが……すらすら決算書を解説してる……」と遥さんが目を丸くする。

美咲は笑いながら、不思議な気持ちで貸借対照表を眺めていた。

売掛金の欄には、掛け売りを始めたカフェとの取引が。貯蔵品の3,400円には、引き出しの切手が。前払保険料の8,000円には、あの夏のボヤ騒ぎが。数字のひとつひとつの向こうに、この1年の出来事が透けて見える

1年前、クッキー缶いっぱいのレシートに途方に暮れていた自分を思い出す。あの紙の山が、仕訳になり、元帳になり、試算表になり、いま2枚の書類になった。

「先生。簿記って、お店の1年を物語にして残す技術なんですね」

宇野先生は、朝日の差し込む店内で静かにうなずいた。

「そしてその物語は、来期も続いていく。——おつかれさま。ハコニワの、初めての決算だ」

この物語の学び

  • 決算の仕上げでは、収益・費用の各勘定を損益勘定へ振り替え、差額の当期純利益を**繰越利益剰余金(純資産)**へ振り替える
  • 損益計算書は1年間の経営成績、貸借対照表は期末時点の財政状態を表す
  • 表示名は勘定科目と一部異なる(売上→売上高、仕入→売上原価、繰越商品→商品
  • 当期純利益は繰越利益剰余金に含まれ、2つの財務諸表は利益でつながっている

物語で流れをつかんだら、教材でルールを整理し、問題集で手を動かしてみましょう。