会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

クリスマス商戦、ハコニワ最大の仕入れ — 運賃と返品とカード払いの夜

年に一度のクリスマス商戦。20万円の大量仕入れに挑むハコニワで、引取運賃、欠けたマグカップの返品、そしてクレジット払いのお客さんが次々と美咲を待ち受ける物語。

20万円の賭け

11月最後の月曜日。雑貨店ハコニワの朝礼(といっても遥さんと美咲の2人だけだが)で、店主の遥さんが宣言した。

「今年のクリスマスは勝負に出ます。北欧のキャンドルホルダーとマグカップ、20万円分仕入れます!」

「にじゅうまん……! うちの月の仕入れの倍以上じゃないですか」

「クリスマスは年に一度だからね。いつもの問屋の白田さんに、月末締めの掛けでお願いしてあるの」

3日後、店の前にトラックが着いた。段ボール15箱。送り状には商品代金200,000円とは別に、こう書かれていた——引取運賃3,000円、現金にてお支払いください。

美咲は運転手さんに3,000円を払いながら考えた。この3,000円、通信費みたいに「発送費」とか、何か費用の科目で書けばいいのだろうか。

運賃は商品の一部になる

夕方、店に立ち寄った宇野先生に聞いてみると、答えは予想の斜め上だった。

「その3,000円はね、独立した費用にはしない。仕入に含めるんだ」

「運賃なのに、仕入……ですか?」

「商品を店に届くまで運ばせて、はじめて売れる状態になるだろう? 商品を仕入れるためにかかった付随費用(仕入諸掛り)は、商品の原価の一部と考える。だから仕訳はこうだ」

12月1日 大量仕入れ: 引取運賃3,000円は仕入原価に含める

借方(左)

仕入203,000
合計203,000

貸方(右)

買掛金200,000
現金3,000
合計203,000

「借方の仕入は203,000円。貸方は、月末払いの約束だから買掛金200,000円と、運転手さんに払った現金3,000円。借方合計と貸方合計はちゃんと一致しているだろう」

「このキャンドルホルダーたちの『本当の原価』は、運賃込みの203,000円ってことなんですね」

「そういうこと。原価が正しくないと、いくらで売れば儲かるのかも分からなくなるからね」

欠けたマグカップ

検品の夜、悲劇が見つかった。マグカップの箱をひとつ開けると、縁が欠けたものが交ざっている。数えると10,000円分。

「白田さんに連絡したら、着払いで送り返してくださいって。代金は今月の請求から引いてくれるそうよ」

「請求から引く……つまり、買掛金が10,000円減るんですね。じゃあ仕入も減らさないと」

美咲は仕入れの仕訳を思い浮かべて、そっくり逆向きにしてみた。

12月3日 仕入戻し(返品): 仕入時の仕訳を逆向きに取り消す

借方(左)

買掛金10,000

貸方(右)

仕入10,000

後日この仕訳を見た宇野先生は、満足そうにうなずいた。

返品は、もとの仕訳の逆仕訳で取り消す。それだけのことなんだが、自力で気づけたのは大したものだよ。ちなみに売った商品が返ってきたときも同じ発想で、売上の仕訳を逆向きにすればいい」

「ひとつ気になってたんですけど、送り返す運賃はどうなるんですか? 仕入れた時の運賃は仕入に足しましたよね」

「今回は着払い、つまり白田さんの負担だからハコニワの帳簿には出てこない。もし自分の店で商品をお客さんに送る発送費を負担したら、それは売るための費用として発送費という科目で処理する。仕入のための運賃は原価に含め、売るための運賃は費用にする——向きで扱いが変わるんだ」

「カードで」と言われた夜

12月半ば。ハコニワは連日にぎわい、その夜も閉店間際に駆け込んできた会社帰りの女性が、キャンドルホルダーとカップのギフトセットを選んだ。40,000円。

「カードでお願いします」

ハコニワは今月からカード決済を導入したばかりだ。端末にカードをかざしてもらい、無事に決済完了。お客さんを見送ったあと、美咲はレジの前で腕を組んだ。

現金は1円も受け取っていない。でも掛け売りの売掛金とも違う気がする。相手はお客さん本人ではなく、カード会社からまとめて振り込まれるのだ。しかも契約書によれば、カード会社に決済手数料2%を払う。

翌日、宇野先生の答え合わせ。

「いい線まで考えたね。カード払いの売上では、カード会社に対する債権をクレジット売掛金という専用の科目で記録する。そして手数料800円は支払手数料という費用だ。3級では販売時に手数料を計上する処理が基本だよ」

12月15日 カード払いの売上: 手数料2%を差し引いた残りが債権になる

借方(左)

クレジット売掛金39,200
支払手数料800
合計40,000

貸方(右)

売上40,000
合計40,000

「売上は満額の40,000円。でも実際に受け取れるのは手数料を引いた39,200円……ちょっと切ないですね」

「その切なさが費用というものさ。後日、カード会社から振り込まれたらこうなる」

12月末 カード会社からの入金

借方(左)

普通預金39,200

貸方(右)

クレジット売掛金39,200

商戦の終わりに

クリスマスイブの閉店後。キャンドルホルダーの棚はほとんど空になっていた。遥さんはホットワイン片手に上機嫌だ。

「大勝利! 美咲ちゃん、今月の帳簿はどう?」

「仕入203,000円から返品10,000円を引いて、純仕入高は193,000円。売上は……集計が楽しみなくらい売れてます。掛けとカードと現金、ぜんぶ科目を分けて記録してあるので、誰からいくら入金される予定かも一目瞭然です」

「頼もしい! 来年は倍仕入れようかな」

「……在庫の置き場所から先に考えてください」

この物語の学び

  • 引取運賃などの仕入諸掛りは費用にせず仕入に含める。商品の本当の原価は付随費用込みで決まる
  • 返品はもとの仕訳の逆仕訳で取り消す。仕入戻しなら買掛金と仕入を減らす
  • クレジット払いの売上はクレジット売掛金(カード会社への債権)で記録し、決済手数料は支払手数料として費用計上する
  • 掛け・カード・現金と支払方法が違っても、売上はどれも商品を引き渡した時に満額で計上する

物語で流れをつかんだら、教材で仕入諸掛りと売上諸掛りの違いを整理し、問題集で返品・値引きのパターンを練習してみましょう。