会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

大阪支店、開店 — 鏡合わせの勘定と未達取引の謎

アオバ商事が大阪支店をオープン。転勤した日野との間で帳簿を付け合わせるうち、支店勘定と本店勘定のズレが発覚。未達取引の謎を拓海が解く物語。

辞令、大阪行き

「日野さんが、大阪に!?」

新年度早々、アオバ商事に飛び込んできたのは、大阪支店開設のニュースだった。合併で手に入れた関西の工房ネットワークを活かすため、営業のエース・日野が支店の立ち上げ要員として転勤する。

「向こうでバリバリ売ってくるよ。……で、経理はどうなるんだ? 俺、大阪で伝票とか書くの?」

「支店にも帳簿を置きます。日野さんの隣に経理担当が1人つくので、日野さんは売ってきてください」

送別会の翌週、佐伯課長は拓海を呼んだ。

「本支店会計の担当、あなたね。支店との取引はぜんぶ、あなたの手を通る。最初に仕組みだけ叩き込むわよ」

鏡合わせの2つの勘定

「本店と支店は、それぞれ独立した帳簿を持つ。でも同じ会社だから、お互いの間のやり取りを記録する専用の窓口勘定を作るの。本店側には支店勘定、支店側には本店勘定

課長はホワイトボードに2つの帳簿を並べて描いた。

「たとえば開設資金として、本店が支店に現金1,000,000円を送る。本店側の仕訳は?」

「現金が減るから貸方は現金。借方は……支店、ですか。支店にお金を預けたみたいな感じで」

本店側 開設資金の送付

借方(左)

支店1,000,000

貸方(右)

現金1,000,000

「そう。同じ瞬間、大阪ではこう書く」

支店側 開設資金の受け取り

借方(左)

現金1,000,000

貸方(右)

本店1,000,000

「見てわかるとおり、支店勘定と本店勘定は鏡合わせ。本店の帳簿で支店勘定が借方に増えたら、支店の帳簿では本店勘定が貸方に増える。だから両方の残高は、貸借逆で必ず一致するのが正常な状態」

続けて、本店から支店へ商品を原価300,000円で発送したときも同じ要領だ。

本店側 支店への商品発送(原価による)

借方(左)

支店300,000

貸方(右)

仕入300,000

支店側では、借方に仕入300,000円、貸方に本店300,000円。拓海は2つの勘定が対になって動く様子を、手帳に矢印で書き込んだ。

決算前夜、合わない残高

大阪支店の滑り出しは上々だった。日野は関西の小売店を次々に開拓し、本店からの商品発送も月を追うごとに増えていった。

そして迎えた決算前の照合作業。拓海は本店の支店勘定残高と、大阪から送られてきた本店勘定残高を突き合わせて、青ざめた。

「支店勘定は借方残高1,500,000円。でも大阪の本店勘定は貸方残高1,300,000円……。200,000円も合わない!」

鏡合わせのはずの勘定がズレている。拓海は帳簿を3回見直し、それでも原因がつかめず、大阪の日野に電話をかけた。

「日野さん、3月に本店から送った商品、ぜんぶ届いてますか」

「ちょっと待てよ……お、そういえば31日発送の便がまだ着いてないな。トラックが混んでて、4月2日着って連絡が来てる。原価200,000円分だ」

それだ。拓海は受話器を握ったまま、頭の中で仕訳を組み立てた。本店は3月31日に発送済みとして支店勘定に200,000円を計上した。しかし支店にはまだ商品が届いておらず、支店の帳簿には何も書かれていない。片方だけが記帳した取引、いわゆる未達取引だ。

「課長、原因わかりました。未達商品200,000円です」

「正解。じゃあ処理は? 決算では、未達に気づいた側……この場合は支店側が、商品が届いたものとみなして先に仕訳を入れるの」

支店側 決算整理・未達商品の整理

借方(左)

仕入200,000

貸方(右)

本店200,000

これで支店の本店勘定は貸方1,300,000円から1,500,000円になり、本店の支店勘定とぴったり鏡合わせに戻った。

支店勘定(本店の帳簿・整理後)

現金送付1,000,000
商品発送300,000
商品発送(未達分)200,000
残高 1,500,0001,500,000

「ズレたら慌てない。どちらか片方しか記帳していない取引を探す。未達になるのは商品だけじゃないわよ。支店が本店の売掛金を回収したのに連絡が未達とか、本店が支店の広告費を立て替えたのに通知が届いていないとか。パターンは違っても、やることは同じ。まだ記帳していない側が、届いたものとして仕訳を入れる

「それで両勘定が一致したら、決算は終わりですか?」

「まだよ。最後は本店と支店の帳簿を合算して、会社全体の財務諸表を作る。そのとき支店勘定と本店勘定は身内同士の貸し借りだから、相殺して消すの。外部に見せる決算書に、社内の窓口勘定は残さない」

東西をつなぐ帳簿

決算明け、出張で大阪支店を訪れた拓海を、日焼けした日野が迎えた。

「おう、経理の東京代表。うちの帳簿、ちゃんと鏡になってたか?」

「200,000円の謎解きをさせられましたけどね。……でも、面白かったです。東京と大阪、離れてても帳簿の上ではひとつの会社なんだって、実感できたので」

「よし、その調子で頼むわ。次はもっと売って、支店勘定を膨らませてやるからな」

それは経理泣かせの宣言だったが、拓海は少しだけ、頼もしいと思った。

この物語の学び

  • 本支店会計では、本店側に支店勘定、支店側に本店勘定という窓口勘定を置き、本支店間の取引を記録する
  • 2つの勘定は鏡合わせの関係にあり、正常な状態では貸借逆で残高が一致する
  • 残高が合わないときは、片方だけが記帳した未達取引を疑う。決算では未達側が取引が到達したものとして整理仕訳を行い、両勘定を一致させる
  • 会社全体の財務諸表を作るときは、本店・支店の帳簿を合算し、支店勘定と本店勘定は相殺して消去する

物語で流れをつかんだら、教材で本支店の仕訳パターンを整理し、問題集で未達取引の整理を練習してみましょう。