会計マスター

📖 ケーススタディ — 物語で学ぶ会計

レジの中の2,000円事件 — 現金過不足と、はじめての小切手

閉店後のレジ締めで、現金が帳簿より2,000円足りない。犯人探しに燃える美咲が「現金過不足」という大人の解決策と、紙切れなのに現金扱いされる小切手に出会う物語。

閉店後のレジで

6月のある夜。雑貨店ハコニワの閉店後、美咲はレジ締めをしていた。帳簿の上では、今日のレジには84,000円あるはずだ。ところが、何度数え直しても、レジの中の現金は82,000円しかない。

「……2,000円、足りない」

美咲は青ざめた。レジの下をのぞき、床を這い、カウンターの隙間に定規を差し込んだ。出てきたのはボタンと北欧の切手シールだけだった。

「遥さん! 現金が2,000円合いません!」

奥から出てきた店主の遥さんは、のんびりと首をかしげた。

「あら。まあ、そういう日もあるわよ。私が店番してた時に何か払ったかも……うーん、思い出せないなあ」

「思い出せないって……帳簿はどうするんですか。実際のお金と合ってないのに、今日の記録を締められません!」

翌朝、美咲は宇野先生の事務所に駆け込んだ。

「まず、事実に合わせなさい」

「昨日の夜、閉店後からずっと原因を探してて……仕訳帳も全部見直したんですけど」

「熱心だね。でも簿記の世界には、こういう時のための大人の知恵がある」

宇野先生は湯呑みを置いて言った。

帳簿は、実際の現金に合わせるのが大原則だ。原因探しは続けていい。でも帳簿の上では、いったん白旗を上げる。そのための科目が現金過不足。原因が分かるまでの『とりあえずの置き場』だよ」

「白旗を上げる仕訳、なんてあるんですか」

「あるとも。帳簿の現金を2,000円減らして、実際の82,000円に合わせる。相手科目が現金過不足だ」

不足発覚時: 帳簿残高を実際有高に合わせ、差額は現金過不足へ

借方(左)

現金過不足2,000

貸方(右)

現金2,000

「これで帳簿とレジはぴったり一致。そして現金過不足という科目が『原因不明の2,000円があるぞ』と覚えていてくれる。原因が分かったら、そのつど正しい科目に振り替えればいい」

犯人は、切手だった

3日後。レジ横の引き出しを整理していた美咲は、一枚の領収書を発見した。郵便局、1,500円。日付はあの日だ。

「遥さーん! これ!」

「あーっ、思い出した! お客様への発送案内のハガキと切手、レジのお金で買ったんだった。ごめんごめん」

犯人は通信費だった。美咲はさっそく、現金過不足から正しい科目へ振り替えた。

原因判明: 通信費の記帳漏れと分かった分を振り替える

借方(左)

通信費1,500

貸方(右)

現金過不足1,500

「これで現金過不足の残りは500円……こっちの原因は、本当に分からずじまいかも」

宇野先生いわく、それでも構わないのだという。決算日まで原因が分からなかった分は、不足なら雑損(雑損失)、逆に多かったなら雑益(雑収入)として処理する。ハコニワの決算は3月末。もしこのまま分からなければ、こうなる。

決算日: 原因不明のまま残った不足分は雑損へ

借方(左)

雑損500

貸方(右)

現金過不足500

「現金過不足は決算をまたげない、一時的な科目なんですね。年度末には必ず空っぽにする、と」

「そういうこと。逆にレジが多かった日は貸方に現金過不足を立てて、決算で残れば雑益だ。美咲さんのように必死に原因を探す姿勢は立派だけど、帳簿を止めないことも同じくらい大事なんだよ」

紙切れで33,000円?

その週末、事件はもうひとつ起きた。アンティークの文具棚をまとめ買いした年配の紳士が、支払いにすっと紙を差し出したのだ。

「小切手でいいかね」

美咲は固まった。受け取ったのは、33,000円と書かれた一枚の紙。お札ではない。

接客を代わった遥さんが慣れた様子で受け取り、紳士を見送ったあと、美咲はおそるおそる聞いた。

「これ……現金じゃないですよね? 帳簿には何て書けば」

「銀行に持っていくと、すぐ33,000円に換えてくれる紙よ。宇野先生に聞いてごらん」

先生の答えは意外なものだった。

他人が振り出した小切手は、簿記では『現金』として扱う。銀行に持ち込めばすぐ換金できる、つまり通貨と同じ力を持つからね。仕訳はただの現金売上と同じだ」

他人振出小切手の受取: 簿記上は現金そのもの

借方(左)

現金33,000

貸方(右)

売上33,000

「え、じゃあ簿記の『現金』って、お札と硬貨だけじゃないんですか」

「そう。通貨に加えて、他人振出小切手のような通貨代用証券も含む。ほかにも郵便為替証書などが仲間だね。ちなみに、自分の店が当座預金から振り出す小切手は話が別で、そのときは当座預金を減らす。『誰が振り出したか』で扱いが変わる——これは先の単元でまた出てくるよ」

「同じ小切手という紙でも、受け取ったら現金、自分が振り出したら当座預金のマイナス。紙の見た目じゃなくて、立場で決まるんですね」

「その視点が持てれば上出来だ。翌週、銀行に持ち込めば33,000円は普通預金にも当座預金にも入れられる。レジ締めのときは、レジの中の小切手も現金として数えるのを忘れずにね」

レジ締めが、こわくなくなった

月末の夜。レジを締めた美咲は、小さくガッツポーズをした。帳簿残高と実際有高、ぴったり一致。引き出しには、遥さん用の「レジからお金を使ったら書く」メモ帳が新設されている。

「美咲ちゃん、なんだか本物の経理さんみたいになってきたね」

「現金過不足のお世話には、なるべくならない方がいいですから」

この物語の学び

  • 現金が合わないときは原因探しと並行して、帳簿残高を実際有高に合わせ、差額を現金過不足に入れて帳簿を止めない
  • 原因が判明したら、そのつど現金過不足から正しい科目(通信費など)へ振り替える
  • 決算日まで原因不明の分は、不足なら雑損、過剰なら雑益へ。現金過不足は決算をまたげない一時的な科目
  • 簿記の「現金」は通貨だけでなく、他人振出小切手などの通貨代用証券を含む

物語で流れをつかんだら、教材で現金過不足の3ステップを整理し、問題集で過剰パターンも練習してみましょう。